第7話 シャア・アズナブル

 一年戦争が終わってから、私はジャーナリストとして活躍を始めました。元々はテレビディレクターでしたので、文章を書くよりも映像の方が経験があったのですし、今でもインタビューで相手に本音を聞き出す事は得意です。テレビの司会をやらせれば誰よりも上手い自信はありますが、可能な限り文章と写真で社会に訴えるようにしています。メディアの腐敗というのは恐らく誰も改善する事ができないのでしょう。旧世紀から現在に至るまでこの点に関しては何も変わっていないとしか100年以上の人生を生きてきた私でも思えません。

 グリプス戦役の時には一度、ジャブローで顔を見ただけですが、実はシャアが行方不明であった第一次ネオジオン抗争の時、私は日本でシャアとあって長い時間話をしたのです。その時のシャアは、カミーユやハマーンの事を悔いている一人の人間に見えました。私は二人だけで様々な意見の交換をしました。スペースノイドとアースノイドの間の相互の無関心、強化人間といった人体への介入、そしてニュータイプの未来についてといった社会問題も当然話しましたが、私が一番聞きたかったのは、妹であるセイラさんがホワイトベースにいると知りながらホワイトベースを攻撃した時の心情に関してです。セイラさんもジャブローから宇宙へ上がった時、シャアのザンジバルが攻撃してきた事はよく覚えていらっしゃるでしょう。あそこは地球の重力下であった為、撃墜されたり、宇宙に放り出されたりしたら、助かるすべはありません。その中でもシャアはセイラさんが乗るホワイトベースに攻撃を仕掛けてきました。

 シャアはその事を悔いているようでした。ザビ家に対する復讐の一念に駆られ、少しづつ、人間としてのあり方を失っていったと。そして自身に人間としてのあり方を取り戻させたのがララァ・スンという、あのエルメスというニュータイプ兵器を搭載したモビルアーマーのパイロットであり、彼女がアムロ、セイラさんとの戦いで戦死した事が、アムロ、シャア二人の人間の人生に大きな影響を与えたとも。セイラさんはかつて「兄さんは鬼っ子よ」とおっしゃっていましたね。偉大な権力者で鬼っ子でないものなどいません。      

 しかし、権力者の偉大さと我々一人一人の人間の生の人生を橋渡しするのがジャーナリズムであると私は信じております。私はレコア・ロンドにも何度か会い、シャアという人物についても可能な限り知ろうとしました。シャアの軌跡を追い、シャアの実像に近づこうとしました。スペースノイドのアースノイド粛清の世論が高まっていく中で、私にはそれがジャーナリストとしての責務であると考えました。

 その結果私が出した結論は、シャアが感情を持たない人間ではなく、感情を取り戻そうとしている人間であるという事でした。

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