腰が痛くなった女

hekisei

第1話

「先生、どう思います? 私、腰が痛いから長洞ながほら先生に電話したのに、『クリニックに来い』って」


そうこぼしたのは、1年に1回、脳神経外科外来を受診する高齢女性。最近、腰が痛くなって長洞クリニックに電話で相談したら、すぐに受診するよう指示されたとか。


腰が痛くて動けないのに「すぐに来い」と言われたとかで憤慨ふんがいしている。


まあ、言っていることは分からなくもない。オレもギックリ腰になったときには動けなかった。トイレに行くのも大変だったし、その後にくのも苦労した。


こうやってオレの外来に顔を見せているのだから、なんだかんだ言っても治ったのには違いない。そもそも脳の話をするために来たんじゃないのか?


「それでね、高橋内科に電話したのよ」


長洞先生も高橋先生も近所なのでよく知っている。長洞先生が若くてエネルギーあふれているのに対し、高橋先生はかなり年配で温厚だ。


「そしたらね、高橋先生は自転車に乗って薬と湿布しっぷを持ってきてね」

「へえ、そうなんですか」

「それで郵便ポストに入れておいてくれたんよ」


そういう方法もあるのか、オレは感心した。診察室で長話を聞かされるより、ある意味、効率的だ。


「すごいですねえ、高橋先生は」

「そうでしょ、すごく親切な先生なの」


そろそろ脳の話をさせてくれないかな。


「じゃあね、こんど医師会で長洞先生に会う予定があるからね」

「ええ」

「アドバイスしておきましょうか」

「お願いできる?」

「先生も自転車買った方がいいですよ、って」

「そっちかい!」

「お大事に」


-完-

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