5.むふふのホワイトデー

 バレンタインデーのお返しに、西浜先輩が招待してくれると云う。しかも、なんと手料理をご馳走してもらえるのだ。

 出かける前、見なきゃいいのにテレビで、わたしの運勢は「大凶」だった。

 最寄り駅を出て道の途中、やんでいた雨が、またちょいと強く降り、開いたビニール傘は派手に壊れるし、向かってきた車が盛大にはねた水をまともに浴びて、体の正面がずぶ濡れになる。おまけに後ろからきた車にもぶっかけられて、背中だって冷たい。それにも増して心が寒い。

 これじゃ駄目だから出直すことにして、連絡しようと思ったけど、携帯電話を忘れてきたことに気づく。マジで「大凶」が現実のものになった。

 だがしかし、もうすぐなので、このまま向かう。

 到着して呼び鈴を鳴らすと、ものの2秒で先輩が玄関に出てくれた。


「旬子ちゃん、どうしたの!」

「いきなりの雨に、傘の破損、泥はね運転ダブルの犠牲者になりました」

「すぐ、お風呂に入って」

「え、いいんですか?」

「うん、さあ早く。それは乾かそう」


 わたしが脱いだ上着を、先輩が受け取ってくれた。

 浴室に案内してくれて「そこの洗濯機にジーンズや、シャツも下着も全部放り込めばいいよ。乾燥まで全自動だからね。ジャケットも洗おうか」と云いながら、すぐお風呂にお湯を張ってくれるのだ。この際だから好意を受けることにする。

 森の香りがする熱いお湯に浸かっていると、外から先輩の声が届く。


『あたしの下着とスカートとか置いとくから、とりあえず旬子ちゃんのが乾くまで、ガマンしてよ』

「えっ、ありがとーございます! ガマンだなんて、それどころか光栄でっす!」


 バカバカしい「大凶ずぶ濡れ」から急転直下、ラッキーなことに先輩の下着をわたしが着けることになるなんて、もはや「超特大大吉」と云っても過言ではない。

 そうなると「体を清めなければ」と思い、丁寧に洗ってからお風呂を出る。

 ふかふかのバスタオルで全身を拭き、いよいよ先輩のパンティーとブラを着ける。ドキドキがとまらない。

 胸のほうは、ちょいと「カポカポ」な状態だけど、股間に感じる幸福な穿き心地は、それを補ってあまりある。

 そして、いい匂いのするブラウスを着て、スカートも穿く。セーターも靴下も鱈菜たらなさんのものだから、これは嬉しい最高サプライズ。

 このあと、温かくて美味しい手料理をご馳走してもらえて、まさに800%増し増しで申し分なく「むふふのホワイトデー」になった。



【 ~ 完 ~ 】

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噺家志望でも恋したい 紅灯空呼 @a137156085

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