第24話 歓迎会とお披露目会。


 元小林親子が合流した日の夜。

 寮生達とみなと家の一同は中庭に集まりBBQバーベキューパーティを行った。

 元々の歓迎会は寮生達のダイニングで行う予定だったが、帰宅した真継まさつぐが気後れした事で急遽中庭で歓迎会を行う事になったらしい。

 それというのも、この場が女子寮という事もあって娘と同世代の女子達に囲まれる事に慣れていない事が要因だろう。


愛海まなみさんの再婚を祝して! かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 歓迎会の幹事として音頭を取る茉愛まいは再婚を祝っているが、あながち間違っていないため日明あきら達も突っ込まなかった。

 氷香ひょうかは上級生のメイドから取り分けて貰った肉を頬張り涙した。


「このお肉、美味しい・・・」


 氷香ひょうかの満足そうな表情を見た茉愛まいはご満悦の表情で微笑んだ。


「この日のために熟成を依頼していましたの」

「それって・・・何日前から?」

「再婚が決まった日だったかしら?」

「そうですね。週の始めだったのは確かです」


 それを聞いた氷香ひょうかは引きり気味となり、隣で微笑む茉愛まいと無表情で佇む果菜はなを見てボソッと呟いた。


「お金持ちパネェ」


 一般生の立場で言えば、そういう反応になるのは必定だろう。隣で野菜を頬張る日明あきら夏海なつみも頷いていたから。

 茉愛まいは一瞬だけ愛海まなみの隣に立つ優希ゆきを一瞥し、微笑みから苦笑へと変えながら食事中の日明あきら達に問い掛ける。

 

「そうかしら・・・ご実家という意味では、お三方も同じでしょう?」


 日明あきら夏海なつみと顔を見合わせ、困り顔で茉愛まいの問い掛けに応じる。


「面識の無い母方の実家を言われてもなぁ?」

「うん。年に数回程度、敷居を跨ぐ程度だし」


 氷香ひょうかも紙皿をテーブルに置き、果菜はなにウーロン茶を注いでもらいながら、あっけらかんと茉愛まいの問い掛けに応じた。


「私の場合は、どちらの意味でも無関係だし」

「表沙汰にしない限りはそうなのでしょうけど、どのみち近いうちにバレますわよ?」

「バレるって何が?」

「先日は女子の家まででしたが、男子の家にまで飛び火するのは時間の問題という事です。みなと家の関係者になった。義妹という立場に落ち着いた・・・あとは言わずとも分かりますよね?」


 そう、茉愛まいは意味深な微笑みを氷香ひょうかに向けた。

 表向き、みなと家は一般扱いだ。

 クラスメイト間で起きた両親の再婚話。

 どういう経緯であれ氷香ひょうかが男子達に狙われる事実は変わらない。

 ゆうとの関係が共に伝わり、お見合いが殺到する事実を茉愛まいは意識付けた。

 氷香ひょうか愛海まなみの側に立つゆうを一瞥し、微笑む茉愛まいを青白い顔でみつめる。


「・・・(それで無理だって鼻で笑ったのね)」


 それは一ノ瀬いちのせ家の当主が決めつけた事。従姉妹関係が漏れたのは一ノ瀬いちのせ家が発端だ。

 両親の再婚と同時に日明あきら氷香ひょうかは男女関係を持てない事にされた。金持ちが持つ世間体で義兄妹から結婚という流れが閉ざされたと言ってもいいだろう。

 愛海まなみ達が外堀を埋めたと思えば世間体だけで埋めた土が掘り返されたようなものだから。

 義兄妹での結婚となると一時的に両親のどちらかに籍を移さねばならない。そこに一ノ瀬いちのせ家が割り込めば、即座に反対され相思相愛であろうとも不可能になるのだ。

 茉愛まいは青白くなった氷香ひょうかに気づきながら、意味深な言葉を口走る。


「そういう意味では彼女も他人とは言い切れませんが・・・(私と日明あきら君からすれば、ですが)」


 氷香ひょうかゆうの背後に佇む優希ゆきに気づいておらず理解不能という表情で茉愛まいをみつめた。


「彼女?」

「いえ。こちらの話です」

「?」


 何を思ってそのような事を口走ったのか?

 氷香ひょうかはウーロン茶をあおりながら残りの肉を頂いた。

 茉愛まいは表情を改め、野菜と肉を交互に頂く日明あきら達へと向き直る。


「それはそうと・・・日明あきら君」


 日明あきら夏海なつみは急に呼びかけられたとして肉を食べるのを止め、ウーロン茶で肉を飲み込んだ。


「ん? どした?」


 夏海なつみは興味本位なまま隣で黙ってみつめていたが。

 日明あきらが肉を飲み込み終えるのを待っていた茉愛まい果菜はなから茶封筒を受け取りつつ、問い掛ける。


「明日の午後、お時間を頂けますか?」


 それを聞いた日明あきらは、きょとんとする氷香ひょうかを一瞥しつつも夏海なつみに確認する。


「午後は確か氷香ひょうか達と勉強会を開く予定だよな? 午前中は買い物だし」

「うん。母屋のリビングで勉強会だね」


 二人の会話を聞いた茉愛まいは真面目な顔から微笑みに変え、分厚い茶封筒を日明あきらの後ろポケットに忍ばせる。


「それなら好都合ですね・・・私達も一緒に勉強会へ参加しても宜しいですか? いつも通りの謝礼も前金で用意しておりますので」

「謝礼って・・・あんな大金を毎回頂くのは」

「それはお気になさらず。貴重なお時間を頂くのです。お陰で私達も少しずつですが、授業の理解が容易くなっておりますので」

「そ、そうか。まぁ・・・くれるって言うなら」

「素直に受け取って下さる事で私達の面子も保てるというものです」

「金持ちも大変だなぁ」

「大変なのですよ」


 日明あきらは茶封筒をなくさないよう、反対側のポケットへ挿していた長財布へ片付けた。その厚みが毎度増している点は置いといて。

 二人の様子をきょとん顔で見ていた氷香ひょうかは小声で夏海なつみに問い掛ける。


「一体何があったの?」

「再婚が決まる前からかな? 寮生に対して勉強会を開いていたの。一年と二年だけでね」


 それを聞いた氷香ひょうかは妙に納得した。しかも、給仕に勤しむ果菜はなを一瞥し何かを思い出していた。


「あ〜。だから小テストの結果が入り乱れたのか。以前なら満点が取れなかった果菜はなさんが満点を取っていたから」

「え? 果菜はなさんっておバカなの?」

「バカではないのだけど残念ではあるかな?」


 二人の会話は小声だった。

 だが、バカの部分は大声だったため──


「あの? 聞こえてますけど?」


 給仕中の果菜はなが会話に割って入り二人を睨んだ。残念と言われ腹に据えかねたのだろう。今がメイド姿であろうとも御令嬢に変わりないのだ。ただ少し異性の目が無い場所のみで弾ける誤令嬢なだけだから。

 氷香ひょうかは困り顔のまま日明あきらのコップを手に取って願い出る。


「おっと。果菜はなさん、おかわり貰えるかな?」

「はい。ただいま。残念について後でお話があります」

「お、お手柔らかにお願い出来る?」

「それは言い訳次第ですけどね」

「・・・(急にお嬢様の空気を纏わなくても)」


 この瞬間だけ二人の間に言い知れぬ空気が漂った。これはクラスメイトとしてなのか?

 他者の知らない空気が二人の間に流れた。

 茉愛まいだけは関係を知っているのか、苦笑しつつも二人を眺めていたが。

 そんな五人の様子を主賓席でみつめていた愛海まなみは静かに微笑む。


(良い関係が築けているようで何よりだわ。とはいえ、一ノ瀬いちのせ家の動きが機敏過ぎて外堀を掘り返されるとは思いも寄らなかったわね。氷香ひょうかちゃんとの関係を発展させないために実の娘を寄越してくる可能性も高いしね。幸い、この地雷・・との関係には気づいていないから、当面はこの子の動きに注視しないとね・・・)


 そして、近くで話し込むゆう達を一瞥しつつ言い知れぬ警戒感をひた隠しした。

 一方、警戒されていたゆうは──、


「そんなに睨まなくても・・・あれはいつもの事故なんだから気にするだけ損だよ?」


 怒り心頭の優希ゆきを相手にあっけらかんと宥めていた。


「前回同様に目の前で示されれば、怒りたくもなります! しかも今回は」

「でんぐり返しで御対面だったもんね? お風呂上がりだったから、二人揃ってノーパンで」

「お陰で思いっきり見られたじゃないですか! しかも煌々と照らされて!」

「まぁまぁ。そのうち慣れるって」

「慣れたくありません!」


 それは優希ゆきがメイド服に着替える前。

 帰ってきた日明あきらの出迎えに外へと向かい、一緒に出てきていたゆうと共にずっこけて示してしまったのだ。

 ガレージ外で二人揃ってスカートの中身を露わにし、単車のライトで照らされたのだ。

 幸い、軽トラが先に入っていたため真継まさつぐに見られる事は無かったが日明あきらは戸惑ったまま、見なかった事にした。

 するとゆうは何を思ったのか──、


「そう言うけど・・・今も穿いてないよ?」


 紙皿と箸をテーブルに置き、芝生に座りながらメイド服のスカートに頭を突っ込み、スマホの灯りで照らしていた。


「何処に顔を突っ込んで・・・え? そういえば妙にスースーするような」


 気づかされた優希ゆきはスカートの上から両手で腰を触り、一瞬で真っ赤に染まる。

 その様子を足下から眺めていたゆうは楽しそうに助言した。


優希ゆきさんは下半身が鈍感だよね。そのまま私と共にノーパン生活を満喫しよう! 健康に良いって聞いたし・・・」


 助言は優希ゆきの耳には届いておらず、慌てた優希ゆきはその場から離れようとした。


「い、今すぐ穿いてきます!」

「慌てると危ないよ?」


 そう・・・「危ないよ」っと言いつつ優希ゆきの足下に右足を出し、思いっきり転けさせたのは言うまでもない。


「ぎゃふん!」

「薄暗い中で走ろうとするから・・・長い裾だった事が幸いだねぇ」


 ちなみに、転けた優希ゆきの反対側には転ける瞬間を目撃した日明あきらが居たが、即座に氷香ひょうかの身体で隠されスカートの中身が見られる事はなかった。

 それを見た愛海まなみ氷香ひょうかに対して静かにサムズアップしていた。

 これも息子に要らぬ刺激を与えないよう義妹が身体を張ったからだろう。


(ホント、油断出来ない子達だわ・・・)





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