第23話 同居開始と起き抜けの獣。
土曜日の〈みなと寮〉に元・
「それじゃあ、また後で」
「気をつけてね? 脇見運転しないように」
「おうよ。
「分かってるって。父さんも気をつけてね」
この日の
ガレージ内に入った
親子でのやりとりは終始笑顔だったが、今は恥ずかし気な様子だった。
「いらっしゃい。部屋の荷物は届いているから今日は荷ほどきしてね」
「はい。おじゃまします!」
「そこは、ただいまでしょ?」
「た、ただいま」
実に初々しいやりとりだ。
この日から親子となる
「それと・・・今日から関係者となるから、寮内の決まりを昼食時にでも教えるわね」
「決まりというと、食事当番とかですか?」
「ですか、ではないわね」
「あ。しょ、食事当番とか?」
本当なら翌日の勉強会で〈みなと寮〉へと訪れる予定だったのだが、勉強会よりも前に父親の再婚が決まり、あれよあれよという間に荷造りを終え、家の売却が本日となったのだから、人生何があるか分からないという心境だろう。
一応、勉強会の前の予定は変更無しだが。
「そうなるわね」
「食事当番なら問題はないけど」
「助かるわ。何気に舌の肥えた子が多いからね。今は女子寮そのものだから、
「ち、茶会?」
「ケーキ屋に勤めていた事は知っているわね?」
「うん」
「その流れでね。定期的に開かれる茶会時だけ彼女達が過ごすリビングを訪れるのよ。その代わり・・・茶会以外の当番が出来ないから」
「ああ。助かったと」
「寮は男子禁制ではないけど、出入りする場所によっては大問題となる場所もあるからね?」
「大問題? あ、お風呂?」
「ええ。
そこには裸の
(なんで二人して裸なの?)
二人の姿を見た
それは一般的な男子が居れば目がランランとなる姿だ。
「もしかして、お風呂掃除?」
「ええ。二人が出てきた場所に寮生の大浴場があるのだけど、基本女子風呂だから出入りするのは私と
「えっと・・・二階は?」
「荷入れと荷出し以外は入れないわね」
「ははははは、大変だぁ」
「大変なのよ。男手が出来ても、あんな感じで徘徊する女子生徒が
「ほ、
「
「き、気をつける」
残された
「ホントに裸だわ。女を捨てている者が多いとは聞いていたけど、アレを見た今なら婚約者がみつからないのも分かる気がする」
すると裸の
「義姉さ〜ん。到着していたんだね?」
窓際で佇む
「ええ。でも、今が夏場だからいいけど、着替えは持っていってないの?」
「着替えも乾燥中だよ」
「乾燥中?」
「うん。二戦したからね。元々着ていた下着も服も脱衣所で一緒に乾燥中だから」
部屋を覗き込んだ
「に、二戦?」
「最初、私が風呂掃除していたのだけど、朝風呂派の
「は、反撃されたと?」
「そうなる。一応、風呂掃除は終わらせていたから、朝風呂に入れなかった
「それで二人して裸だったのね」
「困った事にね。休みの日はどういう訳か
「寝てるって、今は昼前よ?」
「平日はともかく休みの日は寛ぎたいんじゃない? それはそうと・・・寮を案内しようか?」
「そ、そうね。顔見知りも当然居るけど、ご挨拶も必要だし」
「歓迎会は夕食時に行う予定だから、その時でもいいよ。起きている人達も今は少ないし、お兄ちゃんと義父さんが帰ってきてからでも遅くないし」
「そ、それじゃあ、案内して貰おうかな?」
「当番表も書き換えないといけないし、先ずは大浴場からご案内するね!」
ちなみに、バイク屋では
§
「大浴場って、こんなに広いの・・・」
「そうだよ。これを一人で掃除しているのだけど・・・結構、力が必要でさ。お湯を抜いている間に床を磨いて、洗い場の湯垢とかを流すの」
「わ、私に出来るかな?」
「大丈夫だよ。毎日綺麗にしているから、それほど汚れていないしね。気をつけるのは排水口だけで・・・髪の毛がこれだけ溜まるから」
その手には纏められた髪の毛の束があった。
一応、ビニール手袋をはめているのは食中毒予防のためでもあるのだろう。洗い終わったとはいえ排水口へと手を入れるのだから。
「ある意味、ホラーね」
「慣れたらそうでもないけどね。洗濯機のフィルター掃除もあるから、見慣れてしまうし」
「そうなのね。それはそうと、洗濯って誰が行うの? 今は一台だけが動いているけど・・・」
「それはメイド達だね。
「毎日ではないのね。それならバイトの兼ね合いも取れそうね」
「今日みたいに急遽休みになった人が居た場合は私が入るから安心していいよ?」
「それは助かるわ」
本当なら
「こちらが女子トイレね。母屋のトイレがいっぱいの時はこちらで致してもいいから」
「私が使ってもいいの?」
「問題ないよ。大浴場もそうだけど、寮生が入った後なら、私達も使っているからね?」
「そうなのね。あれ? 私達?」
「お兄ちゃんは違うよ。母屋には小さいけど、お風呂があるし。玄関側にトイレもあるから」
「小さいって・・・どれくらい?」
「う〜ん? 私と一緒に入っても問題ない大きさではあるかな? 三人並んで入るくらいの広さはあったと思う。あれも母さんがゆったり寛ぎたいって言ってリフォーム時にお願いしたらしいし。今は大浴場を使っているから母屋のお風呂はお兄ちゃんが一人で使ってるようなものだけど」
「そう。一緒に入って・・・」
それはどういう意味での一緒なのか?
「へ? 一緒に?」
「どうしたの?」
この時の
これも無視するに足る言葉を
「今、一緒にって・・・」
「ああ。先日一緒に入ったよ? 寮生の入浴が遅かったから入るに入れなくて、お兄ちゃんが浸かってる間に突撃したの」
「そ、それって、水着は?」
「着てないよ。素っ裸で突撃したの。悲しいかな、私の裸を見ても反応はしなかったけどね」
二の句が継げないとはこの事か。
「そう・・・(ある意味で正常ではあるのね)」
この時の表情は呆れたままだったが、正常ではないのは・・・
すると二人の元に──
「あら? 今日でしたの?」
寝ぼけ眼の
「ええ。まぁ・・・というか今、目覚めたの?」
「折角の休日ですもの。勉強も良いですが、休む時は休まないと入るものも入りませんから」
「そういう事ね。総合二位の実力はそうやって養っているのね」
「普通科二位、総合五位の方に言われましても」
「・・・まぁいいわ。今後ともよろしくね。寮長さん」
「ええ。こちらこそ。ところで
「まだ、寝てるみたい」
「
二人の話を聞いた
「ああ。それなら忠告しておきますね」
「忠告?」
「はい。起き抜けの彼女には近づかない事です」
それを聞いた
「うんうん。危険だから
「危険?」
問い返しに応じたのは背後に控える──
「女子更衣室以上の事が待ち受けます」
「女子更衣室・・・
「それはそれです。コホン! 本当に危険なので身ぐるみを剥がされたくなければ、近寄らない事です」
「「うんうん」」
「身ぐるみを剥がされる・・・?」
そう、
「きゃー!」
その叫びを聞いた
「この声・・・
「今日の被害者は
「
「もとちゃんもトイレから顔を出してる? 下着が三着あるから剥かれた後かぁ」
「剥かれるって、ああいう事を言うの?」
「だから危険なのです。寝ぼけて転けて何処をどうやったのか、両手に上下の下着が現れるという」
全員が戦慄したまま共用玄関を眺めた。
「上下の服も脱がされてる。本当に危険だわ」
「お兄ちゃんが相手でも剥いたからね。トランクスだけは死守したけど」
その後の
「本当に危険だわ」
出くわしたら最後、あっさりと剥かれる。
相手が誰であれ、寝起きの
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