第13話 授業と意味深。
数学の授業が開始された。
(うわっ・・・マジで?)
それは既に通った道。
県立では終わった箇所をこの学校ではようやく始めていたところだった。
最初からの復習と呼べば相違ないが。
(まぁどのみち、ノートは取り直さないといけないから丁度良いか)
先の火事でノートの一切合切が焼けたのだ。
以前のように板書出来るか不安だった
今回は
現に──、
(ふーん。地味男君は頭もそんなに良くないのね。聞くことよりも板書に一生懸命だわ)
委員長と呼ばれた小林という女子生徒も斜め前の席から横目で眺め、思い違いをしていた。
一方、
(
お爺さまから
それから程なくして授業が終わった。
「本日の授業はここまで」
委員長は次の授業の用意を行いながら席を立ち、片付け中の
「案内するからついてきて」
「あ、ああ。分かりました」
実に素っ気ない一言だけ言うと
「は?」
しばらくすると委員長はお辞儀しながら扉を閉じ、一冊のパンフレットを
「これを見て勝手に回って。一応、立入禁止の部分だけ塗りつぶしておいたから、間違って入る事は無いでしょ」
そうツンケンしながら胸に押しつけるように手渡し教室に戻っていった。
(女子の思考回路、マジで分からねぇ)
「まぁいいか。教室の場所とか大事な箇所だけは赤ペンで示してくれてるし。昼休憩で見て回ってもいいな・・・一人の方が気が楽だし」
最後の一言は本音だろう。
地味なのも一人で居たいがための姿だ。
構ってくる者は知っている者だけだ。
この日を乗り切れば何とかなると思いつつ
§
その後の
歩きスマホ自体は禁止だが、授業と試験以外は持ち込み禁止となっていない緩い校則に助けられたようだ。パンフレットを持ち歩かないという手段も、委員長の内申点に響かせない対処でもあった。
(任命された職務を放棄・・・減点二。自分から委員長に成りたがったのに、困った人だわ。本当なら私が案内して差し上げたいのに)
それであっても
肝心の
(セーフ!)
ハンカチで汗を拭いつつ教室に戻ってきた。
パッと見、急いでトイレに向かって戻ってきている風にも見えるかもしれない。
教室へと戻ってくる度に
「腹が痛いなら休んだらどうだ?」
これは踏まれた事への意趣返しのつもりなのだろうが
「次は英語か・・・」
「聞いているのか?」
「これが済んだら昼飯だな」
「腹が痛いなら」
「次の授業が始まるから席に戻った方がよろしいのではないですか?」
「い、言われなくても!」
(あらあら。パンフレットですか・・・減点一ですね。成績にどう響くのか、考えた方がよろしいですよ。小林さん?)
みつめられる委員長は知らんぷりで教科書を読み込んでいた。内申点に響いている事に気づかぬまま、当てられる箇所の音読と訳を行っていたようだ。
一方の
「(ご、後藤先生・・・県立では非常勤と聞いていたけど、こちらが本職だったのか?)」
「では、授業を開始します。えっと・・・前回が」
教師はそう言いつつ名簿を開き名前を読み上げる。普通なら当てる事など無いのだが、彼女は立場など完全無視で行う類いの教師だった。
「
「はい。問題ありません」
「も、問題ありませんって?」
「小林さん。静かに」
「はい。すみませんでした」
委員長の言い分はもっともだろう。
他の生徒達も心配気だったり、馬鹿にしたりする者も居たのだから。教師はそのような輩を完全無視したまま
「では始めて下さい。いつもよりゆっくりで」
「分かりました」
直後、ゆっくりとした発音で教科書が読み上げられる。それを聞いた委員長は驚きながら後ろを向き
「結構。訳のミスもありませんでしたね。先月の授業で読み間違えた箇所も正しく発音が出来ていましたね。さて、次は・・・」
「(先月? どういう事?)」
教師の一言を聞いた生徒達は困惑の表情を浮かべる。このページは今日初めて読み上げた場所だ。それを復習かのようにスラスラと読み上げ、訳のミスも無ければ驚くほかないだろう。
そして英語の授業は滞りなく終わり──、
「それと、
帰りしな英語教師が爆弾を落としていった。
(!? まぁいいか。復習用で使えば・・・)
教師も同じ者のノートを何冊も見るのは気が引けるのだろう。既にあるならそれを使えば良い。それで全て納まると思っていたようだ。
そんな一言を受けた直後、昼休みに入る。
周囲の生徒達は教師の一言に疑問気となる。
「あれってどういう事? 特別視?」
「違うでしょ? 何か余所で習ってたとかじゃないの?」
「先月とか言ってたし・・・先生って授業が無い日は出勤してないけど」
「それが関係しているのかもね」
一方の
「み、
「ごめん。あと数カ所だけだから」
モジモジとした委員長の呼び止めに応じる事なくあっさりと出ていった。
これは職務放棄した件ではないだろう。
授業の事で問い掛けたかったらしい。
すると
「当然の対応ね。ところで知ってる? 彼が何処から転入して来たか」
「え? 知っているのですか」
周囲の生徒達は昼食に向かい、
「当然でしょ? 私を誰だと思っているの」
「理事長の・・・」
「そういう事よ。一言で言うと後藤先生が非常勤講師している有名進学校から来たの」
そう、
男子達は馬鹿騒ぎしており聞かれる事などなかった。委員長はその一言を反芻して驚いた。
「有名進学校・・・そ、それって例の県立?」
「ええ。成績は常に上位だったそうよ。一見、地味だけど頭
「中盤・・・そ、そんなに早くやって?」
「教科書は早く終えてしまって、残りは応用が主らしいわ。生の英会話を行って学校教育の範疇を超えた授業を・・・って、やつね。後藤先生がゆっくりと言ったのも、本来はネイティブかってほどの速度で読み上げるらしいから」
「そ、それは・・・」
絶句になるのは仕方ないだろう。
どういう経緯で転校してきたのか?
一般生徒はそれぞれの事情があってこの学校に居る。委員長とて同じであり、聞くのは野暮というものがあった。
すると
「まぁ・・・それはそうと。職務放棄の件、私の権限で見て見ぬ振りしたけど・・・どうする?」
満面の笑みになりつつ委員長に釘を刺した。
委員長は一瞬で顔面蒼白に変わり、狼狽しながら言い訳を発しようとした。
「そ、それは、その、あの、えっと・・・」
だが言葉に出せない理由が原因だったため、最後は俯いて沈痛な表情に変わった。
地味男と名指しし面倒だからと丸投げした。
パンフレットの注意書きが良心だとしても。
勝手に見てくればという対応は職務放棄に取られても不思議では無かった。
「まぁいいわ。今回は担任の暴走があったから貴女も被害者としましょうか」
「痛っ! え? それって?」
「本来なら私が案内するようにって、お爺さまから言われていたのだけど、ウチの担任って労働組合長だから反発したという事でしょうね。査定に響くのは貴女ではなく反発した担任ね」
「で、では?」
「気にしなくていいわ。どのみち、もう見て回ったみたいね・・・ほら、中庭で妹に面倒を見てもらっているわ」
「妹? あれって一年の・・・」
「彼って
「一年で一番可愛いと言われる女子の、兄?」
委員長は購買に行くことも忘れ、きょとんとしたまま中庭の様子を眺めた。
視線の先には
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