第11話 初登校と大嵐。
この日の
「
時折、見慣れぬ学生として横目で見られていたが。それは女子寮と思われる建物から男子が出ていれば必然なのかもしれないが。
「さて、いっちょ頑張りますか・・・」
近くのコンビニまではそんなに運動している風にはならない。学校への道中は自転車で一時間も漕がないといけない遠距離だったのだ。
「あとで筋肉痛にならなければいいが・・・運動不足が祟ってるかもな。ダンベルも焼失したし、適当なところでペットボトルに水入れて運動すればよかった」
そう、一人でブツブツと呟きながら
おそらくそれがお嬢様達を乗せるための送迎車なのだろう。あるところにはある。自身には無縁ともとれる車列を眺めながら
しばらく走ると学校の門が見えてきた。
学食を使うのは教員と御令息、御令嬢達だけだ。一般学生は購買かコンビニ弁当が殆どだ。
「握り飯と兵糧。それとペットボトルの水でいいか。野菜もほしいが傷みそうだしな・・・」
見慣れぬ学生として周囲から視線を注がれているが、これも致し方ないだろう。
「こんなもんか。あとは・・・って」
その直後、猛烈な勢いで近づく者が居た。
「お兄ちゃん! 置いてくなんて酷い!!」
それは汗ダラダラな
「すまんすまん。一応、配慮したつもりなんだが」
「それは校内だけって言ったじゃん! あ、タオルありがと・・・少しだけ待ってて! 化粧してくるから」
「おう。なんか必要なら買っておこうか?」
「それじゃあ・・・スタミナ弁当を二つ! ほうじ茶とフルーツ牛乳も!」
「お、おう・・・結構食うんだな」
「朝ご飯は食べたけど、さすがに空腹だよ〜」
「それもそうか・・・お疲れさん」
一方、二人のやりとりを見ていた周囲の学生達はというと──
「今の子、誰だ?」
「あの地味太君の身内か?」
「身内だろう? お兄ちゃんって言ってたし」
「トイレに入っていったけど、化粧って」
「ああ。すっぴんだろうな。というか・・・」
「すっぴんが可愛いって珍しくね?」
「わかる! 大半は作られた可愛さで隠すブスが多いが、ありゃ本物だわ」
「誰がブスだって? 誰が?」
「はっ・・・居たのか?」
「居ましたが? 彼女をそんな風に見てたの」
「そ、そんな事はないぞ。おまえは可愛い」
「あの子と私、どっちが可愛い?」
「え、えっと・・・おまえ?」
「なんで疑問形なのよ!?」
一部で痴話喧嘩が発生しているが珍しいと思う者が多かった。
しばらく待つとトイレからいつも通りの姿の
「ほい。弁当」
「あ! ありがとう、お兄ちゃん!」
「次いでにシュークリームも入れといた」
「わぁ! ホントだ! ありがと」
「・・・ところで何処で食べるんだ?」
「ん? 教室かな・・・あ! プリンもあるぅ」
「教室か? 早弁は出来るのか・・・?」
「割とね。結構、学校と家とで距離があるから食べてる子が多いよ? 本当なら今日の予定、私が案内するはずだった話も先輩達にかすめ取られたし、私に出来る事は通学だけだったんだよ? 校内じゃ一緒に居られないから〜」
「そ、そうか・・・それは悪いことをしたな」
「そうそう。悪いことだから明日からは忘れないでね?」
「善処します」
「そこは、はい! だけでしょう?」
それは本当に珍しい光景だった。
普段から明るくキリリとした表情で校内を歩き、周囲には分け隔てなく接する
お兄ちゃんという単語から二人が本当の兄妹とは誰も思うまい。すっぴんを見た者達も既にコンビニには居らず、トイレから出てくる前後を知るのは
二人は自転車を引きつつコンビニから移動する。学校の門前には送迎車が多数止まり、御令息や御令嬢達が次々と降りていた。
「改めて見ると圧巻だな・・・」
「慣れてくるとそうでもないけどね。九時の授業開始までに、ひっきりなしで車が行き来するから。あまりにも台数が多いからって他の門とかからも出入りしてるからね〜」
「これは一握りって事か・・・はぁ〜ぱねぇな」
「全校生徒中、一般生徒の方が少ないからね」
二人はズラズラと出てくる派手な男子やら取り巻きを連れた女子達を眺めつつ先を急ぐ。駐輪場には一般生徒しか居ないが、駐める位置は早い者勝ちだ。校舎に近いところへ駐める者やら正門に近いところへ駐める者が割と多い。
中程は空きが多く、それも次々と通学してくる学生でごった返していく。中には近隣から徒歩通学してくる者の居るが、それは極少数だ。
二人は自転車を中程に駐め校門に移動する。
「ところで部活ってどうなってるんだ?」
興味本位というかこの後に行われる案内では聞くに聞けない事だからだろう。
「一般生徒で活動している者は少ないね。近くに居る子が大半かも。寮のある場所から遠いっていうのもあるけどね」
「ということはお嬢様達だけが活動しているって事か」
「ご子息達もだね・・・」
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
周囲の目を引くというのはこのことだろう。
しばらく進むと校門前に二人の女子が陣取っていた。一人は見覚えのある茶髪ロールヘア。
一人は憤然とした表情の茶髪ポニテだった。
否、二人ともが憤然とした表情だった。
「
「妹といっても、それはやり過ぎじゃない?」
「おはようございます、先輩方。どうやり過ぎなのでしょう? 兄妹のスキンシップですよ」
「極力関わらないんじゃなかったの?」
「それは校内だけでしょう? 大体、一年生と二年生では学生棟が違いますし、私が行き来出来ない事もご存じですよね? 例外は
「確かにそうね・・・私だけが例外ね?」
「お嬢様、私もです!」
「それも今回だけよ? 担当を一時的に
「そ、それは悪かったとは思いますけど・・・」
「そうそう。悪いと思うなら──」
立ち位置を
だが、その直後・・・唐突な突風が発生した。
「「きゃあ!」」
それは朝の天気予報で、ところによって荒れるとあったのだ。
「!!?」
一方、威風堂々としていたのは茶髪ポニテの
驚愕顔の
動悸が荒れたように右手で胸を押さえて。
「す、すまん」
「? どうして貴方が謝るのですか?」
荒れ狂う風は未だにあり、スカートを押さえる二人は唖然とした表情に変わった。
「「はぁ?」」
が、その直後の二人の行動は早かった。
「
「そうですね、先輩」
自身のスカートは反対の手で押さえたまま。
「私がストッキングを脱がせますので」
「はい。予備の紐パンを穿かせます」
「ちょ、ちょっと! 二人してなんなんですかぁ!」
「ところで先輩。これ・・・入りますかね?」
「
「まるで・・・タワシですよ。なんとか納めましたけど」
「これは夕方にでもエステサロンに連れていきましょうか。予約は私が取っておきますから」
「それがよろしいでしょうね。残念過ぎます」
「二人して何を話しているのですか! 人のスカートの中で!!」
風の猛威が未だにあり、誰もが
「やはり冷水をぶっかけ過ぎたから、感覚が鈍感になったとか?」
「それだと
「ですよね・・・なんでなんでしょう?」
「お世話に気が回り過ぎて、自己犠牲精神でも育ったのでしょうか?」
なお、
(く、黒いパンストだけ・・・彼女は露出性癖でもあるのだろうか? 昨日もパンストの下は何も無かったし・・・俺、死期が近いのか? 流石にそれは嫌だなぁ・・・)
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