第10話 お茶会とルームメイトに御用心。
「ほい。かんせい〜」
「「うわぁ〜!」」
「焼きたてだから少し熱いが・・・母さんはどうする?」
「どうって?」
「このあと出かけるなら」
「ああ! そういう事? 問題ないわ」
「なら、洋酒を少しだけ掛けてみようか?」
「それで、お願い!」
母は食い気味にお願いした。
生クリームまでも用意していた
「いいね、キター! えぇ・・・何処のお店って返ってきた。どうしよう?」
「それなら港店って返せばいいでしょう?」
「それだと送迎車を走らせる子が現れるよ? 出来たてケーキとか滅多に食べられないし・・・というか、すごい美味しい!!」
「ホントだわ。お茶会に出してもいいくらい」
母も
母がお茶会という意味深な言葉を吐いていたが、
「喜んでくれて良かったよ。甘すぎないよな?」
「「ちょうどいい(わ)よ」」
母も
「そっか。作った甲斐があるよ」
すると
「ところでお兄ちゃん?」
その表情は何処か思案気だった。
「どうした?」
「えっとね・・・市販の菓子折よりこちらの方が喜ばれると思うけど・・・?」
その問いを聞いた
「あぁ。そういえばそうだな・・・失念していたわ。でも、お嬢様達の舌を唸らせる物でもないだろ?」
しかし
母が太鼓判を押すように微笑んだから。
「それは問題ないわ。学食のパティシエかってほどのお菓子だもの。材料が必要なら言って?
「うんうん! 私、走っちゃうよ〜!」
だが、この時の
「いやいや、それなら単車出して行った方が早いぞ? それに
「あっ!」
「それなら、お金を出してあげるから材料を買ってきたらいいわ。業務用スーパーは分かるわよね?」
「ああ。頻繁に利用してたから問題ないぞ」
ちなみに
「デイパックを背負って・・・」
§
業務用スーパーから戻ってきた
抜け毛が入らないよう三角巾を被り、両手にはゴム手袋を装着して。何処から持ってきたのか白い制服を身につけ一種の調理者に変じていた。そのうえマスクを着ける用心振りだった。
家族に作る時はそれほど厳重に行っていなかったが、今度は相手が相手のため用心した
ただ、その姿を見た
「気にしすぎじゃない?」
引き
今は余熱したオーブンの前で必要数の型に流し込んでいたが。
「出来上がるまで気は抜けない」
「そうかなぁ?」
「まぁ食品衛生法を思えばね?」
「ああ。それもあって誕生日の後に受講して」
「「資格あるの!?」」
その一言には母と
「一応な。バイク屋に勤める前の職場で取ったんだよ。個人経営のケーキ屋だったから」
「そ、それで?」
「だから手順に淀みが無かったのね・・・」
「あくまで助手だけどな。焼くのは店長がやってたから」
「それでも材料を混ぜる事って結構大変だよ? 油断するとダマが出来るし」
「食感は確かに変わるな。空気の入れ方とか、舌触りとか」
それから数十分後、人数分のパウンドケーキが焼き上がった。今回はアイシングしケーキの砂糖を抑えめにした
「「ん〜!?」」
「うん。焼き加減も問題ないし、アイシングが甘さ控えめのケーキとマッチしてるな」
「私、こちらが好みだわ。酒ありもいいけど」
「私もこっちが好き〜!」
「そうか? まぁ・・・アーモンドプードルを足しただけあるかな?」
「それでなのね!」
「材料を一つ足すだけでこんなに違いが出るんだ」
その後は切り分けたケーキをお盆に載せ、母は二階に
先ほど
「もとちゃんの御要望にあったパウンドケーキだよ〜」
「!? 何処で買ったのぉ?」
「何処って手作りだけど?」
「手作り!? どういう事ぉ!?」
「落ち着いて! お兄ちゃんの手作りだよ?」
「!!? えぇ! あの!!」
「あのって・・・まぁ、そこに居るけど」
伊達にお嬢様ではないという事だろう。
「あ。初めまして・・・普通科の
「初めまして。
この時の
しかも、愛娘が家政科に通っているそうで店長が引き続きよろしくとまで言っていた。
どういう意味のよろしくなのか不明だった。
おそらく
ただ──、
「うそぉ・・・」
「
反応は上々。だが、呆然なのは変わらぬままだった。何が彼女の琴線に触れたのか理解出来ない
(そういや、何処かで見たな? この風貌)
だが、思い出そうにも思い出せない
肝心のお茶会は盛況なまま終わりを告げ、
その際に寮長こと
「そういえば同じクラスになるみたいですね」
「そうなのですね。まだ校内の全容を知らないので・・・」
というように反応に困る対応を行った。
すると
「私が案内する! 転入初日は明日だけど、朝一で行えば問題ないよね?」
「お、おう・・・でもいいのか? 学校だと」
「誰も居ない時間帯なら問題ないよ!」
だが、その一言は別の者を呼び寄せた。
「同じクラスの私が案内します。一年生が入れない棟だってありますから」
それは
「確かにその方がよろしいでしょうね。
「!!?」
それを聞いた
「では明日の朝、校門前でお待ちしておりますね」
この時の
「あれはわざとか? マジなら俺、死ぬの?」
呆然と佇む
一方、
「いえ。あれは天然ですね・・・事故も同然なので、気にしないであげて下さい」
「そういえば・・・なんでパンツ穿いてないの? スカートが捲れてお尻が丸見えなんだけど?」
「
「あぁ。
「彼女の下半身が鈍感なところだけは・・・残念ですよね。顔と身体は綺麗なのに」
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