第9話 勉強会と不本意な渾名。
そして翌日の午前中。
この日の
それは学校の教科書が届いた事で内容を熟読する事と
「で、これをこちらに代入して」
「あ! そういう事? やっと解けた!」
解ると楽しい。すらすらと解けると面白い。
そんな姿を眺めつつ先々を不安視する
「やっぱり予想以上に遅れてるんだな・・・」
「進学校と同じと思ったら大違いだよ?」
「てっきり同じくらいだと思ってた」
「母さんが言ってたでしょ? 遅いって」
「確かに・・・。それで母さんは?」
「寮の方で説明してる。お兄ちゃんのこと」
「説明ね・・・出て行くって言いそうな子とか冤罪を作り出す子とか現れそうでちょい怖い」
「冤罪犯はこの寮ではおとなしい方だけどね。私に冷水をぶかっける以外は」
「? そうなのか?」
「うん。それとお兄ちゃんには風呂掃除こそ行わせないけど、共用玄関とか玄関先の掃除をお願いするって母さんが言ってた」
「そういや、寮母の家族として行うことがあったんだな」
「まぁね」
珍しく兄妹間の会話を行う二人。
離れていた期間を埋めるように、
するとそんな二人の仲を引き裂くようなノックの音が室内に響き渡る。
「だ、誰だ?」
「お兄ちゃんはそこで待ってて」
キッチン側から廊下に移動した。
直後、廊下で騒ぐ大声が室内に響き渡る。
『やっぱり居たじゃない! なんで隠すの?』
『いちいち言う必要が無かったから?』
『無かったって・・・大事なことでしょう?』
『そう思ってるのは
『そんなはずないわ! おばさんと一緒に隠すなんて酷いじゃない! 今日初めて聞いて驚いたわよ!!』
『そうかな? それよりも愛が重いよ?』
『重くて結構! 私はそのためだけに生きてきたんだから!』
『それなら
『それはそれよ!!』
扉越しに聞こえる口喧嘩は少々偏愛めいたものだった。
それは・・・もし寮生が駆け込んできたら逃げるようにと、母から言われていたからだ。
「ヒステリー、こえぇぇ」
§
そして昼前。
キッチンには調理中の母が居り──、
「あら、お帰り〜」
こそこそと戻ってきたら即座に気づき、声を掛けてきた。
その表情は何処か不安そうであり、
「た、ただいま。話は・・・うまくいってないみたいだな」
しかし、杞憂とでもいうようにあっけらかんと返された。
「そうでもないわよ? 一人が暴走したけど、ほかの子は気にしてないわ。むしろ、好意的に思ってる子が多いわね」
「好意的?」
「ええ。進学校で二番だった事が要因みたい」
「それだけ?」
「それだけよ。いつの世も頭の良い男性がいいって言う子は多いから。ま、まぁ・・・それで愕然として暴走した子も居たけどね(・・・成績優秀と聞いて予定外って感じだったけど)」
「あぁ・・・廊下で
「寮生達の昼食を用意しているわ。
「なるほど。
「それは出来るわよ。私が仕事の間に一人で過ごしていたもの」
「そうか・・・これは定期的に料理して貰おうかな」
「それは本人に言ってあげてね。喜ぶから」
「ああ。戻ってきたら言ってみるよ」
母はそんな兄としての
しばらくすると
「お兄ちゃん、お帰り」
「おう、ただいま。大丈夫か?」
「なんとかね〜。
「その
「家政科の先輩。お兄ちゃんとは関わる事が無い・・・と思う、世話好きの困った先輩だね〜」
「思う? まぁ・・・寮生とは必要以上に関わらないようにしておくさ。油断すると学校が恐ろしい場所に変わりそうだし」
怯えるように話を締めくくった。
母はそんな
「それは殊勝な心がけね」
「でも、先輩達の反応は良かったんだよね?」
母は
二人も同様に手を合わせ昼食を食べ始めた。
母は食事の最中、
「ええ。寮長なんて自室裸族勢に寝ぼけて廊下を歩かないよう注意していたわ。
「というか寮長自身がその手合いだから大丈夫なの? 先日も下半身だけ晒してたし」
「一応、意識してるみたいだし彼女も大丈夫でしょう。婚約者が居ない者がこの寮に集まっているのは不本意だけど」
「別名、婚活寮か・・・」
「な、なんだ? その不本意な渾名は?」
「
「卒業生だったのか!?」
「驚くのそこ? まぁその行き遅れが退寮したあとも行き来している事から他の卒業生が名付けたらしいよ。私も友達から聞いて驚いたし」
「まだポンコツ寮と呼ばれてる方がマシに思えるわね。寄付金を多く出す家の者が多かったはずなのに、多く出す代わりに婚約要件が高すぎて、誰からも相手にされないという不本意が不本意を呼ぶ状況に変化してるけど」
「だねぇ〜。私なんて逆に声を掛けられて鬱陶しいって思ってるのに」
「
「文武両道じゃないよ。勉強は中程だよ? 武道なんて幼い頃に習ってた合気道が出来るだけだし」
「そこがまた良いっていう男の子が多いのでしょうね。自分が護るより護ってくれそうで」
「自分の身くらい自分で護って〜」
母も
「ところでコレ、何処に持っていけばいい?」
食事中の母と
「・・・それなら片付けに向かう時に一緒に行こう? お兄ちゃんが一人で行くと絡まれるから」
それを聞いた
「絡まれる?」
「うん。今日の片付け係は家政科の子ではあるのだけど、少し一癖がある子達だから」
「子達? 先輩じゃなくて?」
一応、寮生に同じ学科の友達が居る事を
「一年生だね。部屋番号で言うと、102、103、106、108号室の子達だね。調理の方は一階の二年生が行ったけど」
「そういや全室の学年構成ってどうなってるんだ? 全員女子だって事は置いといて」
「えっとね・・・二階は寮長とメイドを除いて全員が三年生だね。一階は一年生と同数の二年生が居る感じかな? 三年生が二十二人、一年生が一階で八人、二年生が十人居るの」
「
「含めたらダメだよ〜」
「いやいや。菓子の数がギリギリだったから。この際・・・
だが、この呟きを聞いた母と
「「!?」」
自炊が出来ると聞いていたが、菓子作りまで出来るとは聞いていなかったのだ。
「パウンドケーキでいいか。未成年だから洋酒を使わないタイプで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。