第4話 添い寝と暴露。
そして翌日。
「朝・・・か。疲れ過ぎて爆睡しちまった」
扉側には昨日持ち込んだドラムバッグが転がるだけだ。中身は昨晩の内に
他にも買う物が沢山あるだけに
「時間は・・・七時か。いつもなら飯の用意して・・・ん?」
枕元にあったスマホを手に取り時間を確認すると、左手になにやら温かく柔らかい物がある事に気づいた。
「これは・・・柔らかな中に程よい芯があって」
その覚えがあるようで無い感触は寝ぼけ眼の
「んんっ・・・」
「・・・
そう、
「・・・数年振りだし、これは仕方ないか」
妹は昔から布団に潜り込む事が多かった。キモいキモいと言い出したのは両親の離婚がきっかけだったが。それまでは学校以外で付かず離れずの距離で遊んでいた兄妹だった。
布団から出た
廊下へ出て目の前のガレージ扉ではなく反対側のリビングへ向かう。母は既に目覚めているようで美味しそうな朝食の薫りが廊下に漂っていた。
「確か・・・ガレージ脇の渡り廊下は紹介までは使ったらダメって言ってたな。それと廊下奥の扉も。カーテンを開けるのは長期休暇以外では寮生が出ていった後だとも言ってたっけ。休日は朝の九時まで閉めっぱなしらしいが・・・やっぱり、寮生達に配慮してるのかね? まぁ俺が関わる事は無いだろ。同じ学校になったとしてもクラスメイトが居るとも限らんし」
それは昨晩、風呂上がりに聞いた寮のルールだ。他にもツラツラと長ったらしいルールが存在しているが寮母の子供は対象外のため、気に留めておくようにとまで言われる始末である。
この寮は寮母の住まう母家が平家として存在し、寮は二階建てという造りになっている。母家と寮を繋ぐ場所はキッチン側の扉とガレージから繋がる渡り廊下だけだ。これも有事の際には非常口へと代わる場所のため、寮生達も避難訓練の時は利用している。
共用スペースは渡り廊下の先に店舗へと入る扉が設けられており寮生と出くわすとすればそこくらいだ。そこには共用玄関と二階へと上がる階段、トイレと洗面所が存在している。
非共用スペースには大浴場と寮生が過ごすリビング、ダイニング、キッチンが存在し残りの全ては寮生達の部屋となる。
店舗側の二階にも寮生達の部屋があり、主に三年生達が住んでいる。他にも色々と出入り可・不可の場所があるが、それも紹介が終わるまで立入禁止とされた
「今日は・・・普通に授業があるみたいだな。玄関先が騒がしいし。というか、
そして、布団で惰眠を貪る妹を思い出す。
すると目覚めた
「遅刻しちゃう!? お兄ちゃん! 起こしてくれても良かったのにぃ!」
「目覚ましくらいは置いとけよ。そもそも、何で俺の部屋で?」
「うぐっ。そ、それは、久しぶりだったし・・・って、それよりも! 先に顔洗うから!」
「慌ただしいこって」
中では母が楽しげに料理しており──
「あら? おはよう。ゆっくり休めた?」
「おはよう、母さん。いつもよりは」
ダイニングテーブルには朝食が用意されていた。
他は少なめで母娘の席である事が判るから。
母は困り顔のままクスリと笑った。
「いつもよりは・・・ね」
ちなみに母家の間取りは、キッチン奥にトイレと洗面所、裏玄関。リビングの隣には母の寝室と兄妹の部屋。廊下奥の扉の手前に脱衣所と風呂場が存在している。
この寮は元々下宿だった造りをそのままにリフォームした建物のため、母家の方が古く寮の方が若干新しい造りとなっている。それでも地震で共倒れと成らぬよう鉄筋補強されているようだが。
「簡単に流してから行く」
「朝ごはんくらい食べないと大きくならないわよ? 胸が」
「うぐっ。じゃ、じゃあ、猫まんまで!」
「行儀悪いわねぇ。隣には見せられないわ」
「見せる見せないの話じゃないの! 私達は庶民なの! 隣と一緒にしないで!」
母は味噌汁のお代わりを
「早朝補習だものね」
「好きで休んでない! 大体、
「いつもの調子でお風呂場で喧嘩するからよ〜」
「風呂掃除してる時に入ってきたあっちが悪い!」
するとそんな
「時間が許す限りでいいから教えてあげたら」
「・・・授業の進み具合にも依るが?」
早朝補習で急いでいたと知り、速度が遅い割にシビアだと思う
「既に通った道だから簡単だと思うわよ?」
「まぁ復習になるから構わんけど」
「だ、そうよ?」
「!! お兄ちゃん! ありがとう! でも! 出席日数も大事だから帰ってから教えて!」
呆け顔の
「そういや、自転車・・・買わないとダメだよな」
「そうね。ただ、編入試験があるから合否が判ってからでも遅くないわよ? 制服も作らないといけないし」
「そっか。でも、確か・・・学ランじゃなくてブレザーなんだっけ? 紺色の」
「県立は市販の制服でも良かったけどね」
「うへぇ。出費が嵩む・・・」
「それは私が出すから気にしないで」
「いや、親でも貸し借りは良くないから最低限は出すよ。バイト代からコツコツ貯めたヘソクリもあるし」
「そう? というかアルバイトしてたのね」
「禁止だったけどな。こちら側なら教師達の目につかないから」
「ふふっ。勉強片手にアルバイトとバカの面倒。親はなくとも子は育つ・・・か。私が出来る事は食事を用意する事みたいね」
母はそう言いつつも朝食を頂き、楽しそうだった。思いの外、逞しく成長した長男に期待している風でもあった。クズの面倒をみていたからこそ反面教師で育ったともいうが。
母は朝食を食べ終えた
「今日は色々買い物に向かいましょうか。外での撮影もあるから帰りになるけど」
ニコニコとお願いしてきた。
「それは助手として?」
「そうなるわね。力仕事が得意な男手が出来て助かるわ〜」
「ま、まぁ、いいか。暇だし。参考書も見て回りたいから」
「ええ。本屋さんにも寄りましょうか。それと朝一で役所の手続きも行わないとね」
「でも夕方はバイトがあるから長居は出来ないけど」
「それじゃあバイト先まで送ればいいわね」
「うっす」
そう、
母は食事を終えると片付けを始め、不意に
「そうそう。言い忘れてたけど、この寮はほぼ女子寮と化してるから不意打ちで下着姿や裸を見る事になると思うけど相手にしないであげてね? 一々反応していると身が持たないから。しかも恥ずかしいって感性が麻痺してる残念な女の子しか居ないのよね〜。家柄は良いのに何処か残念な子ばかりが集まって・・・どうしてこうなったんだか?」
「は? じょ、女子寮?」
「そ。残念な女の子が住まう寮なのよ、ここは。外ではポンコツ寮とか呼ばれてるけどね〜。不本意ながら」
「ポンコツ寮・・・」
寝耳に水とはこの事か。
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