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四人用のダイニングテーブルに並べられた沢山の料理。野菜に魚にお肉に果物……すごいごちそう!
「熱いから気をつけて!」
ぽっかり空いたテーブルの中心に、大きなパイがやってきた。ナイフを入れると湯気がぶわっとあふれ出す。ミートパイだ!
「うちのミートパイ美味しいのよ。中身はママが作って、包むのと焼くのはパパがするの」
ジュースが乗ったトレーを持ってきたクレオが誇らしげに言うと、クレオのママもはにかんだ。
「クレオの大好物だもんね。カフカちゃんにも絶対食べてほしいから作ってってお願いされたの」
「ちょっとママ! そういうこと言わなくていい!」
「どうして?」
「どうしても!」
クレオはぷんすか怒っているけど、ほんわか優しそうなママは全然動じてない。そんな二人に苦笑しながら、クレオのパパが切り分けたパイを「どうぞ」ってわたしのお皿に乗せてくれた。
「クレオ、職場でもツンツンしてる?」
「ううん。気が利くし働きものだから、みんな頼りにしてます」
そう聞くとパパとママはほっとした顔になって、クレオは恥ずかしそうにうつむいた。
「……もうっ。カフカはできたてのほうが好きでしょ? 冷めないうちに早く食べて」
「そうだね。どうぞ食べて」
「遠慮しないでね。たくさん召し上がれ」
「うん、いただきます」
えへへ、いい匂いにつられてお腹ぺこぺこだったんだ。フォークでミートパイを口に運ぶと……おいしい! サクッとした香ばしい生地と、肉汁が溶けたごろごろお肉のミートソースがたまらない!
「すっごく美味しい!」
「ふふん。でしょ?」
「こんなに美味しいものがいつも食べられるなんていいなぁ。クレオのパパもママも料理上手なんだね」
クレオは得意げな顔をして、まだ湯気が立っているミートパイを念入りに冷ましてから食べると、顔がとろっと幸せそうに溶けた。多分、さっきまでわたしも同じような顔をしてたと思う。
クレオのパパとママはわたしたちを見てずーっとニコニコしていた。わたしがパイを食べ終わると、すかさず空いたお皿を回収。
「サラダ食べる? 取り分けよっか」
「いただきます。自分で取るからだいじょ……」
「パパが取ってあげるよ! ほらこの花の形のキャロニ、かわいいでしょ? いつもはクレオにあげるんだけど、今日はカフカちゃんに入れてあげよう」
「パパまで! ヘンなこと言わないでってば」
「全然変じゃないよ。ね、パパ」
「ねーママ」
「んもー!」
……いいなぁ。すごく素敵な家族。
ごく普通の幸せな家族って、こんな感じなんだ。優しいパパとママがいて、思っていることを言い合えて、なによりも安心できる、あたたかい場所。
クレオが幸せそうで嬉しいな。とーっても嬉しい。
「……なによ、そんなニヤニヤして」
「へ、そんな笑ってた?」
「うん。すっごいにやけてた」
自分のほっぺたを触ってみたら、確かにゆるんでた。恥ずかしい。
「へへ。家族っていいなぁって思ってたの。優しいパパとママだね」
「カフカちゃんのご両親も心配してるんじゃない? ここに来て何週間にもなるんでしょ?」
「あ、わたし親がいないんです。拾われっ子で、おじいちゃんに育てられたから……」
パパとママの顔がみるみる悲しそうに曇っていく。あわわ……わたしは慌てて付け足した。
「でも、全然寂しくないよ! おじいちゃんすごく優しくて面白くて大好きなんだ。それに村の人たちもみーんなわたしに優しくしてくれるし、たくさん遊んでくれたし。だから、全然平気!」
おじいちゃんがもういないことを言ったら更に悲しませそうだから、そこは内緒にしておいた。なるべく明るい口調を心がけたおかげか、二人ともすぐにほっとした顔に戻る。
寂しくないわけじゃあないけれど、孤独な気持ちでいっぱいってほどでもないから、嘘ではないもん。
それに、村のみんなやバレンさんたちみんな、わたしのことをいつも心配してくれてるし。おじいちゃんがいなくなってからもわたしのことを気にかけて、お話したり、優しくしてくれて……
…………あ。
「でね、カフカが釣った魚どうしたと思う? こんなちっちゃいのに、ハヤテとチルさんと三人で分けて食べたんだって。ね、カフカ。……カフカ?」
「あ…………うん! そう、一人じめするのがね、その、忍びないというか」
「カフカちゃん優しいだねえ」
「パパも昔はよく魚釣りしてたんだよ。使ってない竿があるから貸してあげようか」
血の繋がった家族のだんらん。優しいお父さんとお母さんにめいっぱい愛されて、幸せそうなクレオの顔。
いいなぁ、とは思う。でもね、羨ましくてたまらないってほどじゃないの。ましてや妬ましさなんか、これっぽちも感じない。
それはどうしてなのか、わたし知ってる。
ずっと…………知ってたはずなのに。
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