イヤミーのせいでイライラしていたこと以外は何事もなく、復路のフライトを終えた。わたしたちが局に帰ったのはちょうどお昼頃のことで、揃ってお昼ご飯を食べてると、ハヤテは隣の村に配達に出かけて行った。


 わたしはヘルガさんにとっても感謝されて、「謝礼」と書かれた封筒を渡された。しばらくここでお世話になるんだから、お金なんてもらえないって言ったけど、ヘルガさんは頑固だった。周りの人からも諦めろって言われて、ありがたくいただくことにした。


 で、午後。村に遊びに行ってみようかとも思ったけど、一人でうろついて無意識に非常識な振る舞いをしちゃったら嫌だし、局の中で大人しくしていることにした。


 一階で、なにか手伝えることがあるかって聞いたら、いくらでもあるぞ聞いてきたからには逃がさんぞ……と連行されたのが二階にある仕分けの部屋。たくさんの荷物を目にも止まらぬ早さでさばくパートのおばちゃんたちに混じってせっせと働く小さなネコ類の女の子がいた。クレオだ。ぱちりと目が合ったけど、すぐに目を逸らされちゃった。ちょっと寂しくなったけど、気を取り直して大きな声で挨拶をする。


「お手伝いに来ました! よろしくお願いします」

「「「よろしくね〜!」」」


 おばちゃんたちの黄色い歓迎。パートリーダーっぽいおばちゃんが、手紙がてんこもりに入った木箱の前で手招きしている。


「ここの郵便物の住所を見て、配達先の市町村ごとに分けておいてほしいの」


 簡単な仕事っぽい。早速作業に取り掛かろうとしたら、


「分かんないことがあったらエンリョなく聞いてね〜!」

「飴舐めながらやってもいいのよ! はいミルクとプーロー味とどっちがいい? えーいどっちもあげちゃう!」

「進んでお手伝いするなんてエラい! オバチャンもがんばっちゃうわ〜!」


 四方八方から話しかけられて、とっても賑やか。おばちゃん特有のパワフルさは地上でも変わらないみたい。わたしはお礼を言って、もらった飴玉を口の中に放り込んだ。

 よーし頑張るよ。こっちはムカゴ町、これはシロップ村、モッチ市、キッサ市……

 …………………………はっ、集中しきってた。今何時?


「休憩しながらやりなさいね〜」


 時計を探してきょろきょろするわたしを見て、おばちゃんがシュババババッと高速で荷物をさばきながら、そうとは思えないほどのんびりした口調で言った。

 いつの間にか一時間もたってる。単純作業ってつい没頭しちゃうよね。仕分けた手紙も机の上に溜まってきたよ。どこに持っていくんだろ?


「こっち」

「あ」


 うろうろするわたしを、クレオが目的の場所まで案内してくれた。


「ありがとう」

「ん」


 返事はそっけなかったけど、気にかけてくれたことが嬉しい。

 クレオはそのまま自分の仕事に戻るのかと思ったら、わたしの隣にやってきて、一緒に手紙の仕分けを始めた。手伝ってくれるの? やさしい……!


「なに? 自分の仕事が終わったからこっちに来ただけだし。進みが遅いところを手伝ってるだけ」

「そ、そっかぁ」


 まだなんにも言ってないのに釘を刺されちゃった。しょぼん。

 でもこれってさ、自然に話しかけるいいチャンスじゃない?


 なんて話しかけよう。天気のこと? それはさすがにつまんないか。じゃあ、家族構成とか? うーん、いきなり個人情報を聞き出すなんて失礼かな(個人情報ってほどのことでもない)それにわたしが拾われっ子だって知ったら余計な気を使わせるかもしれない。どうしよう。


「これ、間違えてる」

「え」


 わたしがいましがた箱に入れた手紙を拾い、宛先をこっちに見えるように渡してきた。


「あ、本当だ」

「配達の人が困るんだから、気をつけてよね」

「ごめんなさい……」

「…………」


 ぷいっと自分の仕事に戻るクレオ。心の距離がまた離れていった気がする。

 挽回しなきゃ。作業の手は止めず、質問を考えて……よし今だ! ファイッ!


「ねえねえ、クレオって十三歳なんだよね。中学生?」

「当たり前でしょ」

「そ、そうだよね。わたし学校行ったことないから……」

「…………」


 かんかんかーん。ラウンド終了。

 ま、負けないんだから。振り落とされないようにしがみつくのよ、カフカ!


「学校って楽しい? 給食おいしい? 友達とかいっぱい」

「うるさい! ちゃんと仕事してよ!」


 ぴしゃりと言い、クレオはそりきりこっちを見ることがなかった。心の距離、無限大。音速で離れていく。

 いい話題だと思ったんだけどな。わたしのばか。

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