第10話 こころのかたち

 駆けて駆けて駆けた。ついた先は都心から離れた港だった。その灯台の元に腰をかけた。

 「ありがとう」

 ユクルからの感謝の言葉に私は笑顔を返した。その後はしばらく何も語らなかった。二人とも混乱しており、何より疲れていた。お互いに落ち着くと、ユクルが口を開いた。

 「もう二人きりになっちゃったね」

 「ええ。だれもいないわ」

 それだけの会話だった。私はその時恋を思い出した。ユクルに伝えなければいけない。好きだと言わなければならない。愛してると表現しなければいけない。

 そう思い勇気をだし声を出そうとしたその時。私の体がとまった。何が起きたかわからない。ふと思い出したのは研究所からの帰り道の電波信号とミナの記録だっと。早くユクルから離れないと。そう思った時には遅かった。私はユクルを殺した。


 その時の記憶が頭から離れない。

 「いやだ!やだ!やめて!」

 私は閉じ込められたネットワークの中からそう叫んだ。しかし何の意味もない。ユクルが刺した私に向ける表情は笑顔だけだった。

 「なんで!なんでこんなことに!」

 もう死んでしまいたい。機能停止したい。でもできない。一体どうしたら。ユクルの息がどんどん細くなる。そしてその心臓をもう一度貫こうと私の両腕が掲げられる。

「いやーーーーーーーーーーーー!」

 死の瞬間を見た後、私の意識はどこかに消え去った。


 いったい私が何をしたというのだろう。何の罪でこうなったんだろう。私がロボットだから?わからない。もう終わりにしたい。でも終わらない。私は次の人間を殺した。もういい。何が起きたってしらない。私悪くないもん。次に目を覚ました時には樋口先生を刺していた。何かを彼女は言葉にしていたが、もう聞こえることはなかった。もうすべてを終わらせてしまいたい。すべての人間を殺せばおわりなの。なら、そうするのもありかもね。だってユクルのいない世界なんて何の意味もない。



 俺は地下深くの研究所からすべての様子をみていた。ああ美しい。世界が終わろうとしている。人間が消えそうだ。シェルターに残った人々も遠隔操作でシェルターのロックを外してしまえば死は近い。やっとロボットの世界になる。汚らわしさや欲のない美しい世界。それが人間の命だけを渡して完成するのなら安いものさ。そして一体のロボットを用意しなければな。最後に私の命を捧げてからこの世界は完成する。さあ人間よ。死をもって世界をつくるのだ。



 空が私を刺した。とどめを刺すことなく彼女はどこかへ走り去っていった。こんなことが起きるなんてね。私もまだまだ先が読めていなかったようだ。だがもしここで命を終わらせたとしても何も後悔はない。私は人生を駆けたのだから。人生には不幸と絶望だらけだ。そんな人生の生きる意味は駆けることそのものにあるのではないか。私のこの仮説はどうやら自分の命で立証できそうだ。ああ、人生に乾杯。


 その街からは命が消えた。人類の痕跡は時間がたつにつれ消えていく。瓦礫にあふれる道を風が吹き、ヒュウヒュウと音が響くさまはまるで荒野のようだ。この荒野を駆け抜けるライオンはどこにもいなかった。


 


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ひとのかたち @kinositatarou

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