第9話 まちのかたち

 研究所から家へもう少しというときにおかしな電波信号が脳のAIに流れた。ものすごく嫌な予感がした次の瞬間、周りの建物が爆発した。私は一瞬でロボットの暴走だと理解した。ユクルを助けないと思い。全速力でかける。私たちの家は爆破されていなかったが、いつまでも安全とは限らない。

 「ユクル!」

 急いで家に入るとユクルは床に倒れていた。

 「大丈夫!」

 「問題ない。義足がうまく動かなくてね」

 彼の義足には歩行を助けるAIが内蔵されているが、それが暴走したのかもしれない。

 「私がおぶるから来て!」

 彼は今が非常事態であることを理解しており素直に私に体を預けた。


 私は駆けた。非常時用に身体能力を飛躍的に向上させる機能があるために他のロボットが近づいてきても高速で走って距離を取ることができる。どこに行けばいいのかわからなかったので、できるだけ郊外にいこうとした。その途中で「たすけて!」と声が聞こえた。

 「たすけよう」ユクルは人を見捨てない。私はそういう彼が好きだからこそ、声の下にむかう。そこでは中学生くらいの女の子が右腕を刺されていた。まずいと思い、高速でその場へ向かう。だが間に合わなかった。刃物がのどを突いた。赤い液体が流れだす。私は無言でそのロボットを破壊した。私もロボットのはずなのに強い嫌悪感をもった。

 「ユクルここでまってて」

 ユクルはうまく立てないため近くの瓦礫に座ってもらい、女の子に迅速に救急措置を行う。しかし、間に合わなかった。

 「いやだ。こわいよ」

 これが彼女の最後の言葉だった。それを聞いたときには胸が締め付けられる感覚が私を襲った。でもユクルをすぐに遠くに連れて行かなければいけないと立ち上がり、ユクルの方を向くと一体のロボットがユクルに襲い掛かろうとした。私は急いだ。はやくあのロボットを止めなければいけないとそう思った。だが間に合わない!彼を失うのは絶対にいやだ!

 そう思った次の瞬間。ユクルとロボットの間を何かが遮った。それはおまわりさんだった。おまわりさんがユクルを守ったのだ、私はすぐにロボットを処理しようとした。弾き飛ばし機能停止寸前に追い込んだ。そのあとにそのロボットがミナだったことに気が付いた。

 「どうしてこんなことを!!」

 「あれえ、空。どうしたのこんなところで。」

 ミナは壊れている。状況が理解できていないようだ。そんなときに私の中に一通のメールが届いた。ミナからだった。そのメールを開けるとミナからのメッセージだった。

 「私を壊して」という短いメッセージだった。

 私は涙がでなかった。理解が追いついていないからだ。そのメールにはもう一つのメッセージがついていた。彼女の記録みたいだ。

 「18時55分未知の電波信号を感知。だが機体への異常なし ネットワーク不良と断定」

 「20時55分機体の制御が不可能となる AIは半スリープモードへ移行」

 ここから察するにミナの意思で襲ったわけではなかったようだ。溢れんばかりの思いで彼女を抱きしめたが彼女の機体はさっきの言葉を繰り返すだけだった。

 ミナを破壊し、ユクルの方を向くとおまわりさんが立っていた。

 「ありがとうございました!」二人で礼を言った。

 「礼なんていらない。それよりもこのはやくこの場から離れなさい」

 「けがはありませんか」

 「問題ない。私は大丈夫だから早く行きなさい」

 「本当にありがとうございました」

 そのあとはまたユクルを背負いすぐに駆け出した。ユクルだけは絶対に守る。その決意は心に刻まれた。


 

 「ふう。行ったか」

 二人を見送ると体を横たわらせた。横腹は血が止まらない。何とか二人に気付かなかったか。仰向けになると夜空がみえる。もう助からないなと悟った。でも苦しみはあまりない。走馬灯のように今までの人生が脳を駆け巡る。家族がいない私に最後に映し出されたのはみんなの笑顔だった。

 「新人研修は最後まで終えたかったな」

 南五郎の人生はここに終わった。


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