第127話 たった一つの接点から・・・

 賀来ちゃんの御見立てに、ほぼ全面的に賛成やな。なんかケチでもつけたろかいなとも思うが、まあ、つける程のこともないかなと、言うところか。

 強いて言えば、それは所詮、その場にいなかった第三者同士が憶測で語り合っているだけのことである。

 さすれば、真実どうかというところには、間違いなく「乖離(乖離)」はあろう。その程度の大小という問題はあるにしても、確実に、ある。それは、間違いない。

 第一、同じ事実でも、そこに集った当事者それぞれ、違った見立てをするのは当たり前のことだからね。誰かの見立てを「強制」など、しようもなかろうに。

 とはいえ、いろいろな資料、人から聞いた話、その他もろもろの情報から、真実に目を向けていくという点では、確かに、わしらがここで話したことも、その基本線にのっとっての作業をしての話であるから、やっぱり、そんなところやろ。

 どんなところと言われても困るが、まあ、そういうことで。


 さて、よつ葉園という、たった一つの接点で、かくもいろいろな人が絡んで、さまざまな物語が紡がれているということは、こうしてみていくほどに、明らかになっていくのが、肌身でわかるな。

 わし、小説を書きだして、そのことをいつも痛感しているよ。

 賀来ちゃんは完全な第三者だが、わしは、第三者でもあると同時に、一時ながら当事者にもなっていた。こちらの希望云々に関わりのないところで、な。

 まあでも、それゆえに、賀来博史では書き得ないことを、わし、米河清治が書いている、というのも、確かな事実ではあろうがね。


 米河氏は、そう言って、残りのコーヒーを飲み干し、チェイサーの水でその苦みともども、体内に流し込んだ。対手の賀来氏も、ほぼ同時進行で同じ行為に。

 かくして彼らは、会計を済ませ、それぞれの目的地へと向かっていった。


「たった一つの接点から、ねぇ・・・」

 賀来氏は、別れ際に、その一言を、対手の米河氏に語るともなく、述べた。

「されど、ひとつの接点、ってことや。それは、間違いなく言えることやで」

 米河氏は、ホテルの自動ドアの前で、そう断言した。

 賀来氏は、頷くよりなかったという。


 

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