第126話 接点は、「養護施設・よつ葉園」だけ 3
米河氏の弁を受け、賀来氏が思うところをさらに述べていく。
まあ、持ちたいとかもちたくないといった主観より、そもそも、そんな話なら、何もわざわざ、接点を持ち合う必要も、ないだろうね。ぼくだってな、仕事の同僚のうちでも、個人的に付合いのある人なんて、それほどはいないからな。
もちろん、例外はないわけでもないけど。
ただ、東先生の文章を読んでいてね、少し、気になったところがある。
森川さんは話し好きで、東さんに対しても、比較的よく話し相手になってもらっておられたようじゃない。
君も読んだろ?
「確かに読んだ。あの、夜中の謎の電話の話から、例の教育勅語事件になるくだり、確かに、確かに、読んだ。ああ、あれねぇ・・・」
と、米河氏が珈琲をすすりつつ、答える。
あの部分のエピソードで、おそらく今の米ちゃんの反応からするに、東さんと大槻さんの関係と、森川さんと東さんの関係というのが、かなり違うのではないかという疑念を持っているのだなと、そう思えるのだが・・・、違う?
~ いや、違わない。と、米河氏。
でしょ。
森川さんは、話し相手としてはむしろ、年齢の離れた大槻さんよりも、親子までは離れていない東さんのほうを選ばれた。ある程度自分に年齢の近い人のほうが話し相手としてはありがたいというのと、何より、別世界で生きて来られた方だから、その方が新鮮というのも、あったろうね。
それに、大槻さんという人は、かねての君や大宮さんのエピソードから見ても、どうやら、個人主義者の色合いのお強い方と思われる。それは、部外者も部外者にして第三者のぼくが見ても、そう思える。いや、確信を持てると言ってもいいほどだ。
で、だ。
森川さんと東さんのようなエピソード、東さんと大槻さんの間にも、実際には少しでもあるのかもしれないが、話しを聞く限りにおいて、いろいろ君の書いた者などを読むのも含めて、どうやら、ほとんどと言ってもいいほどなさげに思うが、どう?
もし、ないとして、私賀来博史はどう分析するかを、述べておく。
森川さんにしてみれば、東さんは確かに後継の園長ではあったが、ある意味、客人のような方でもあった。であるからこそ、あのようなエピソードも残っているし、ひとつあるということは、実際には私的な交流もそれなりにあったに相違なかろう。
これに対して、東さんと大槻さんはどうかというと、親子ぐらいはもちろん、それ以上に年齢差もあったし、本来の職種も違う。所詮、教師上がりの「つなぎ」の爺さんくらいに思っておいでだったでしょう。となるとね、大槻さんの側から見れば、所詮この世界においては、素人に毛の生えた程度の人、ってことになろうよ。
森川さんはプロ中のプロだったが、東さんは、そうではない。
逆に森川さんと大槻さんは、どちらも、プロ同士。
あまりに世代が違うから、それなりに、上手くいった。とはいえここには、さほどもの「公私にわたる付合い」は、ないかもしれん。今申し上げた通り、世代差と言ってもいいほどの年齢差があるからね。ここもまた、いくら遠縁とはいえ、接点はよつ葉園以外にはさほどないのかもしれん。
もっとも、東さんと大槻さんの間よりは、あったようにも見受けられるけど。
そこをうまく補うために、若い人に間に入ってもらったのよね。君の先輩の大宮太郎さんご夫妻のお父さんの哲郎さん。
確か、大槻さんより8歳ほど年長の方だよね。
森川さんはその大宮哲郎さんを通して、大槻さんをうまく導いてもらったという、そんな話じゃない?
これは、年齢の近い第三者を介在させて、大槻青年を導くという手法だ。
そこは、森川さんの上手いところだと思うが、どうよ。
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