第124話 接点は、「養護施設・よつ葉園」だけ 1
アイスコーヒーを幾分口にした賀来氏は、米河氏の弁を受け止めた上で自説を述べていく。
そうか、それは何だ、米河君と大槻さんの間には、暗黙の「不可侵条約」があるという理解でよさそうな感じだな。ぼくの印象では。
それでもって、お互い助け合うことは助け合うし、情報交換もする。
しかし、お互いの余計なことには首を突っ込まない。
確かに、Z君がいつぞや言っていたあの男性指導員さんの口癖の「寂しい話だ」とか、そんな言葉、出てくる余地がないようだな。別の言い方をすれば「身もふたもない」というか・・・。その職員さんからしてみれば、取り付く島もなければ、自分が何か積極的に関わって、お互いいろいろ関わり合いながら、そこで何かをつくりあげていくとか、そういう余地がない世界に、実は君も大槻さんも、生きているわけだ。
私生活上においては、少なくともな。
そしてそれは、仕事上においても、形を変えて大きく反映している。
もちろん大槻さんと君の仕事はまったく違うし、特に何かの団体で接点があるわけでもない。
強いて言うまでもなく、お二人の接点は、「よつ葉園」という養護施設だけだ。今でいう「児童養護施設」では、ない。いうまでもなく、「孤児院」でもない。
そこでお二人は、かつて、職員、それも園長になることを含まされた幹部職員とその施設の入所児童として、過去の一時期、接点があった。ただ、それだけだ。
その施設の属している「児童福祉」という世界において、よつ葉園は、森川一郎さんの時代から、先駆的な取組をしてきた。それは、児童たる子どもたちにとっても職員各位にとっても、いろいろな面で利益となったことは間違いない。
あの冊子にあったでしょ、最初に高等学校に進んだ女性の手記が。
あの時代は、まだ高校進学率もそれほど高くなかった。まして大学進学率ともなれば、言うに及ばず。そんな時代に、定時制高校とはいえ高校と名のつく学校に進学させて、卒業させたというのは、すごい話だと思うぜ。
あのZ氏の大学進学と、同等以上の価値があるのではないかな。
その女性の進路云々の話になったとき、さて、「前例がない」とか何とか、そんな言葉、誰がどの面下げて女性本人に対してはもとより、誰かに言えたか?
そう考えてみれば、明白だ。
そんな言葉を使ってテキトーに流されて生きていけば、「手に職」だっけ、そんな言葉をごまかしワードに使って時期が来たら社会に出して、私らの責任は果たせました、イッショーケンメー頑張りましたで、済むわけもないでしょうよ。
森川さんも大槻さんも、そういういい加減なことを嫌う人だった。
あの資料と君の話や書いた表現群を総合すれば、それは間違いないと思われる。
東先生はどうかと言えば、そのことはわかるけど、小学校の教師をされていた頃から、どこかで、あきらめのような気持から、ブレーキをかけてしまうようなところがあったのではないかなと、ぼくは、思うけどな、どうかな?
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