第119話 ちょっと、休戦に・・・

 お互い話し込んでいて、それなりの時間が経った模様。

 ここで米河氏は、珈琲を少し多めに口にし、さらに話をつないだ。

「実は、その、森川一郎さんが亡くなられた際に、関係者に配布された冊子があるそうでな、それが、O県立図書館にあるみたいや。この連休中にも一つ、読んで来ようと思っている。ただ、貸出禁止になっているようだから、館内で読まねばならんのだが、そこはまあ、仕方ない。館内の郷土欄にあるようで、書庫じゃなくて本棚に置かれているそうだからさ、ま、行って読んでくるよ。ついでに、これはというエピソードでもあれば、いくらかはコピーをとってくる」


 賀来氏は、その話を興味深そうに聞いて、答える。

「そういうことなら、オレにもそれ、読ませてもらいたい。何かの参考にはなりそうだからな。ところで、森川先生が亡くなられたのは、いつ頃のことだ?」

「1978年の初旬と、伺っている」

「そうか・・・。ちょうどぼくらが半田山小学校にいた頃じゃないか。それなら、3年生になる年だが、まだ2年生の時期ってことになるな。今のまどかよりも、はるかに当時のぼくらのほうが幼かったってことに、なるか・・・」

「まあ、そういうことになりますわな、としか、言えんね(苦笑)」

「ということは、その頃の園長は、さっきから話題の、東先生ってことだな」

「そういうことになろう。たぶん、東さんが書かれた文章があるに違いない」

「大槻さんは、どうかな?」

「あの頃はまだ園長じゃないから、ないだろうね。もう5年も長生きされていたとすれば、園長になっていたから、大槻さんが書かれていたかもしれんが・・・」

「まあその、故人をしのぶ冊子であるから、あまりに露骨な話、今日オレらがここでした話なんて出てはいないだろうね」

「そりゃあ、さすがになかろう。正論を言っておかねばならん場所で、世にも突拍子な本音なんか出してごらんよ。それこそ、ヒンシュクモノやがな・・・」

「そのうち、米ちゃんが亡くなって追悼の冊子でも出たら、そんな文章のオンパレードになるかもな」

「わしは、それでも大歓迎であるけど、さすがに、ね、ああいう場所で園長をされていたような方のところで、そうは、行くまいに。それはともあれ・・・」


 ここで少し、話が途切れた。米河氏は珈琲を改めてすすり、グラスを空にした。

 息を整えたところで、おもむろに話を再開する。

「なんか、わしにとっては重いことこの上なさそうな話が掲載されているような、そんな気がして、ならんのよ・・・」

 今度は賀来氏が、残りのコーヒーをすすり、グラスを空にする。

 少し水をすすった後、米河氏に要請した。

「じゃあ、この連休明けの前の日曜の午後に、ここで会おう。詳細は連絡を取合ってのことで。その時までに、情報収集をよろしくお願いしたい」


「わかった。じゃあ、それまで、休戦ということで、よろしく」

 米河氏の弁をもって、彼らの「論戦」は1週間先に持越しと相成った。

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