第118話 中興の祖の狭間に置かれた元教師 3
米河氏、少しばかり水を飲む。コーヒーのグラスのストローを回したものの、こちらのストローは口につけず、そのまま、話し始めた。
そうだな。
そのあたりが、学校教師上がりの人の良くも悪くもなところじゃないかな。
要するに、学校の延長くらいに考えて、園長をやっておられたわけだ。東氏は。
森川さんがそれに対してどういう思いを持たれていたかはわからないが、まあ、任せる以上はあまりとやかく言うのも難だろうというのも、あったのではないかな。
親子まではいかないにしても、年の離れた兄弟というか、逆に年の近めなおじと甥くらいの年齢差があったわけだからね。とはいえ、もういい年、当時で60歳を超えておられたわけだから、今さら、そんな人にああしろこうしろと、当時20代の大槻さんやかつて10代後半で保母としてやってきた山上さんのようには、行かなかったろうことは、容易に想像がつく。
大体な、年を取っての同世代の付合いって、何だかんだで難しいところが出てくるものじゃない。いくら年齢差が少しあるとは言っても、これまでの知合いでもない元校長先生ともあろう御方に、そうそう言っても、さっさと辞めたるわで辞められてもなというのも、森川さんにはあったでしょうよ。
一方の大槻さんだけど、こちらは、大学で中学の社会科の教員免許は取得されていたけど、だからと言って、学校教員になりたいなどと思ったことはないらしい。なんせ、事業を興したいというくらいの人だから、そんなのらくらした仕事なんかやっていられるかってくらいの意気があったのは間違いない。
森川さんは、大槻さんのそこを買われていたのだろうね。そのくらいの意気と実力がないと、養護施設の経営はできない、とね。学校経営なんかより、格段に難しいところだって。とにかく集わせた地域の子らに学業を伝授して、あとはぼちぼち遊ばせておればなんとかなるような場所じゃないから。
とはいえ、学校経営を経験された元校長のような方でも、園長は務まらないわけでもない。その手法は、当面その施設を維持していくくらいのことはできるからね。
マアナンダ、前例を見て、あとは世の中の動きと相手の特性を見てテキトーにやっていけばなんとかなるさ、ってところじゃないかい。かと言ってこれは、そういう人たちを馬鹿にしているわけじゃない。学校経営の手法がすべて通用しないわけでもないが、かなりの部分で、養護施設運営にも応用はできるだろう。
もっとも、そんな程度の感覚の延長で来られているロートル教師なんかの手法に、大槻さんが満足なんかするとは思えない。
それこそ、爺さんはその程度のことができたくらいで満足しているのかってことにもなるやろ。あんたは孫の小遣いくらい稼いでやれたらええくらいの気でおるのか知らんが、ここにいる子らを社会にきちんと出していくには、そんななまっちょろいジジイのカタデマなんかの手法が通用するわけないだろうがと、まあ、そんくらい、言いたくもあったろうし、ひょっと、何かの拍子か弾みで、そのくらい言っていたことさえ、あるかも、わからんわ。
さすがに、わしの前では、後々に至るまで、東さんの話は、酒の席も含めて、まったくと言ってもいいほど、出なかったからね。
それに、東先生が元教師で校長もされていたことを知ったのは、大槻さんからじゃなかった。わしがよつ葉園に居た頃お世話になった滋賀県の高尾先生と、あとは、元くすのき学園の指導員でよつ葉園に移籍してきた、山崎さんのお二人から、話の流れの中でその事実を聞いたことは、今もはっきりと覚えている。
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