第81話 私には、特に・・・
たまきさんは、今朝の夢のことを夫とその父親(舅)が話しているのを、それとなく聞いていた。
彼女なりに、これはとんでもないことが起こっているなと、思ってはいた。
だが、彼女自体はどうかというと、そのような記憶は、特になかったようである。
彼女は、リビングの父子の談話に加わった。
私は特に、今朝に関する限り、そういう夢は、見ていないわよ。
というか、これまで、そんな年配の男性が夢に出てきたとか、そういうこと自体、経験にないけど。
お二人が話題にしている森川一郎先生という方は、私も、よつ葉園の応接室で肖像写真を拝見したこともあるし、過去のよつ葉園の資料を大槻園長さんから拝見したときに、何度か見ているから、もちろん、知ってはいます。それだけじゃなくて、お義父さんの恩人のような方と伺っているから、当然、昔からいろいろ、お聞きしています。立派な方だったということも、重々、承知しています。
それに、津島町界隈にお住まいの年配の方は、森川一郎先生のことを今もってよくご存知で、よつ葉園のことを悪く言う方は、ほとんどいないわよね。
ただ、私自身が岡山に来たのは、1983年の春でしょ。
ほら、O大の受験のときに始めて岡山に来て、大学にそのまま合格して、入学式の数日前に来て、それからずっとってことになるわよね。
確かに、そのときすでに大槻先生が園長にすでになっておられたし、森川一郎先生という方は、確か1970年代半ばに亡くなられているとお聞きしていますから、当然のことだけど、私には面識は、ないです。
それに昨日は、仕事も子どもの世話もあってかなり疲れていたから、割に早くから寝付いていたし、とても、夢をみるような状況でもなかったわね。
ただ、私たちの息子の陽一が、今朝、夢を見たって、起きてすぐ、私に向かって、言ってきたのよ。
「お母さん、さっき、なんか、よくわからないけど、眼鏡をかけたおじいさんが夢に出てきて、ぼくに、何か言っていた」
それで、どういうことか聞いてみたら、どうも、その森川一郎先生じゃないかと思えるような方が、出てこられたみたいね。
なんか、ニコニコされていて、優しそうなおじいさんだった、って。
ふと思って、私の机にあったよつ葉園の資料を持ってきて、森川一郎先生の写っている写真を見せてみたら、やっぱり、このおじいさんだ、って・・・。
大宮父子は、たまきさんの話を聞いても、もはやあまりびっくりしている様子はなかった。
まあ、そんなことも起るだろう。
そんな感じで、彼女の話を聞いていた。
日曜日の朝、10時も近くなってきた。
日はすでに高い。
まだ暑い時期ではない。
からっとした陽気が、窓越しに入ってきている。
岡山は晴れの国だというが、まさに、その象徴のような春の陽気。
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