第77話 かくして、老紳士の予言当たりき

 しかし何じゃ、離婚というものへの負の印象は常にあるものであるが、彼らの話を見聞きして、わしは、ああ、こういう家族の形というものもあるのかと、そうとしかもう、言いようが、ないな。でも、発展的解消というのはしかしまた、目から鱗というか、でもな、わしには、哲郎に言われて頭では確かにわかるが、感情の奥底から理解納得、というわけには、なかなか、いかんのう・・・。

 ともあれ、これから先の大槻君のことについてじゃが、彼はまた、支え合うというか、共に生きていく女性を見つけて、次の人生へと、歩みを進めていくと思われるのじゃが、そこは、どうじゃ?


 森川氏の質問に、大宮氏は即答した。

「まったくその通り。現段階ではあまり大きな声では言えないが、その兆候は明らかに見て取れているよ。ここだけの話だけどさ・・・」

「そうか。やっぱりな。わしの予言が、こんな形で当たる日も間近なようじゃな」

「予言?」

「そうじゃ。わしは、大槻君が若い頃、それこそ前夫人の今西さんと結婚する直前の話、それこそ、哲郎に相談するその日に、わしは彼に申しておった。もし、事業に失敗するとすれば、金ではなく、女ではないか、と」

「事業そのものに失敗しているとは思えないが、ある意味、当たったと言えば当たっているじゃない」

「わしも、そう思っておる。これが他の仕事についてしかも会社の倒産や個人事業で自己破産とか、そういう形になっていないのは、さすが大槻というところじゃ。それに加えて、わしは、彼が仮に事業に失敗しても、改めて彼を支えてくれる女性と出会うであろうとも、申した」

「ちょっと待ってよ。そういえばそんなことを大槻君に言ったと、あの時確かに言っていたよね。その話、思い出したよ。実は、今聞き及んでいる範囲の情報だけでも、彼はすでに、その方向へと進んでいる。いずれ近いうちに、再婚も視野に入れていると、本人もぼくに対して言っていたくらいだから・・・」

「そうか。結局、わしの予言は完ぺきとは言わんまでも、当たったようじゃな。それ自体がうれしいとか嬉しくないとかは、言いたくないけどな」

「当たったからといって、手放しで喜べるものでもないでしょ」

「まあな・・・。でも、最大のリスクは避けられたような、そんな気がするのは、わしだけでもなかろう」

「ぼくも、そこはズバリ、そう思っている。彼がもしあの時、よつ葉園を飛び出してクルマ屋を始めていたら、今か、あるいはとっくの昔にそうなっていた可能性が高かろう。それを思えば、確かに、おじさんの言う通り、最大のリスクを避けて、軟着陸できたとも、言えないわけじゃないね」

「発展的解消の次は、軟着陸な(苦笑)。物は言いようとはいえ、今日は楽しく話せた。出てきた甲斐も、あったものじゃな。そろそろ、夜も明けたろう。わしはそろそろおいとまするが、哲郎君、後は、頼む・・・」


 すでに、夜は明けている。

 森川氏は、淡々とした表情で、大宮氏の元を去っていった。

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