第66話 意味不明の唯物論的事実の適示

・・・・・・南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・・・・・


「今、長嶋監督が手を上げました!」(テレビのナレーション)

「よっしゃー!」(高橋君がガッツポーズ)

「ほら見てみ、米ちゃん、おれの言うたとおりやろ!」

「・・・南無妙法・・・・ああぁぁぁあぁ・・・世もオシマイダー・・・・・」 

 

「高橋君、どうですか?」

「いやあ、めちゃくちゃうれしいですね。これで巨人にまた黄金時代が来ますよ」

「米河君、どうですか?」

「祈りが、届きまへんでしたわぁ・・・」

「松井選手の交渉権は、巨人こと読売が獲得しました。こちら、鉄研の会場では、阪神ファンと巨人ファンの青年たちが、悲喜こもごものドラマを演じています。以上、O大学祭の第二体育館会場より、私、海野たまきが中継いたしました」


 ここで、リクエストの音源をストップ。

 太郎君が、解説を始めてくれる。

 だけど、何だか、違うような気がするのは、私だけかしら?

 

「いやあ、面白かったですね。彼らの表情、この放送でお見せできないのが、本当に残念です。特に米河君の表情がねぇ・・・」

 それ、違うでしょ、どうみても・・・(苦笑)。

「あのねえ・・・太郎君まで何考えているのよ」

「でも、たまきちゃんの久々の「うみの新聞」の写真、彼らの同級生の坂上君が撮影したものですけど、あれは傑作でしたね」

 坂上君の撮影した彼らの対照的な姿は、確かに、私も、面白かったですね。ええ。

 特に、悔しがっている青年のほうが、ケッサク中の傑作でした。

「確かにね。あ、そうそう、このあと少し、彼と私のやり取りを、密かに録音していたんです。そちらも、お聞かせいたしましょう」

 これはもちろん、初めから予定通り。

 これを利かせず、何を聞かせろというのかと、太郎君に至っては、放送前からやたらこの点について張り切っていたっけ。


「海野さん、おつかれさまです」

「高橋君、ありがとうね」

「いえいえ」


 少し間をおいて、今度は、例のお経青年。

 

「ところでねえ、せいちゃん」

「なんですか、大宮夫人」

「誰が大宮夫人ですって?」

「唯物論的事実を述べたまでです」

「何が『唯物論的事実』ですか。ワケの分からないこと言わないの! それより、何なの、あの御経・・・。こんなところで恥ずかしいこと、やめなさいよ! 誰の真似か知らないけど、『ふうが悪い』そのものじゃない。おねえさんはねえ、呆れているんだぞ! 水でもかぶって、反省しなさい!」


 この後の彼の発言が、また、ふるっていました。


 何おっしゃいますねん、たまきさん。

 こういうときこそ、神頼みですわ!

 この際ですね、何教でもええんですよ。とにかく、松井阪神入団で暗黒時代から脱出という目論見が、夢と消えましたわ・・・。

 あ、そうそう、今日はセーラームーンを見なきゃ、月にかわってお仕置きされてしまうんで、このへんで・・・。

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