第65話 祈る青年、衝撃の言葉を発するの巻
××ラジオのレポーター、海野たまきです。
私は今、O大学の大学祭会場に来ています。こちらは第二体育館の、鉄研こと、鉄道研究会の展示が行われています。
どういうわけか、テレビの前には、人だかりができています。
こちらではなんと、プロ野球のドラフト会議を中継しているようです。
ちょっと、様子を見に行ってみましょう。
(模型が走る音とテレビの声。それとともに、御経の声が少しずつ大きくなる)
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・・・・・
「それでは、これから、御集りの皆さんにインタビューしてみたいと思います」
「こんにちは!(私の声。続いて、高橋君が答える)」
「こんにちは。**ラジオの海野たまきさんですね。鉄研元会長の高橋由浩です。今日は、同級生で阪神ファンの米河清治君と、松井秀喜選手の行方を、それぞれ、ひいき球団の帽子を被って見届けようということで、こういう企画を考えました」
「高橋君は、松井選手はどこに行くと思いますか」
「そりゃあもちろん、うちに決まっていますよ。巨人ですって。数年後には松井四番で、巨人は史上最強打線になりますよ!」
・・・南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・
「おい米ちゃん、もうあきらめえや。松井はうちや。往生際、悪すぎやで」
「何を言うか高橋君。わしゃまだまだあきらめへんで。南無妙法蓮華経・・・」
「阪神ファンの米河君は・・・」
数珠をますます強く握りしめ、御経をひたすら唱えるマニア氏。
私が声をかけるや否や、右手に数珠をさらに強く握り締めた。
そして、マイクに向けて話し始めてくれました。
南無妙法蓮華経・・ア、海野さん、もとい、大宮夫人、こんにちは。
そりゃあ、もちろん阪神、我らが大阪タイガースです。
松井入団で、わが大阪タイガースのダイナマイト打線の復活です! 一番センター呉昌征、二番レフト金田正泰、三番ライト別当薫、四番サード藤村富美男、五番キャッチャー土井垣武以来の、真の黄金時代の到来でっせ!
ダトーナガシマ、フレーフレーナカムラ・・・南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・・・
「公知の事実とはいえ、誰が「大宮夫人」だ、コラッ」
と、音源を流しつつ、ここで私が言葉を乗せる。
あとで聞くと、「大宮夫人」のところで待合室には盛大な拍手が鳴り響いたとか。
私のツッコミにも、また、笑いと拍手が。
・・・南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・・・・
御経青年をこちらから遠ざけ、近くにいた年配男性にインタビューする。
「どちらから来られたんですか」
「近所の笹が瀬町です。鉄研の展示、楽しみにしています」
「今年の鉄道研究会の展示はどうですか?」
「いつもですけど、今年も、なかなかいい研究されていますね」
「なぜドラフト会議をここで?」
「ついでですわ」
「松井選手はどこに行くと思われますか?」
「阪神に来てほしいけどねぇ・・・」
「ありがとうございます」
ここで、私は近所のおじさんから離れた。
「もっとしっかり祈れよ! そんなことじゃ、松井を巨人に取られてしまうで!」
・・・・・・南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・・・・・
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