第55話 音楽家・賀来のどかさんのメッセージ

 米河様、御無沙汰しております。賀来博史の妻の賀来のどかです。

 先程、夫より一連の夢のお話、娘のまどかとともに伺いました。

 それについて、私なりの感想を述べさせていただきます。


 私はもともと音楽家ですが(と言えない時期もありましたが)、いわゆるシンガーソングライターとカテゴライズされるところで仕事を続けて長くなります。

 実際に自分で作詞・作曲した歌を歌うこともあれば、他者の作詞や作曲、もしくは作詞作曲とも他者のものを歌うことも、ないわけではありません。

 そういうわけでありまして、私は音楽の作曲や歌の披露をするだけでなく、作詞も当然手掛けてきたわけですが、もともと、私は音楽こそ好きでしたが、作詞にはそれほど興味があったわけではありませんでした。

 若い頃はと言えば、むしろアイドルに近い役どころでの歌手としての活動が主でして、とにもかくにも、人前で歌うことに喜びを感じて、ひたすら、歌うことに頑張ってきました。

 自分で言うのもなんですけれど(おニャン子クラブの歌に、そんなのありましたよね)、かわいいだけで成立っていたような側面も、今思えば否定できません。熱心な親衛隊ともいうべき応援の方もおられ、今も交流がありますが、あれはあれで、今こうして音楽を仕事にするうえでも、大きな糧となっています。

 蛇足ながら、夫の賀来博史も、実は学生時代、私の親衛隊でして、知り合ったのも私のイベントがきっかけでした。


 夫と結婚してしばらくした頃から、アイドルのまま終わっていいのか、せっかく、音楽が好きでそういう仕事に就いたのはいいけど、そのまま終わっていいのか、もっと本気で、音楽に向き合ってみたい、そんな思いがこみ上げて参りまして、改めて、作曲、さらには作詞を学んで、人に楽曲を提供するのもいいが、せっかくなら自分自身でも歌って表現できればと、思うようになりました。


 夫は当時、こんなことを言っていました。

「ぼくは確かに、アイドルとしての水田のどかを見て好きになったことは否定しないけど、音楽家としての水田のどか、まあこの際、賀来のどかにしてくれてもいいが、そういう進化をとげてほしいと思っている」

 そんな言葉に、背中を押されたというのも、ありますね。

 かわいいだけじゃ、いつか見捨てられる。

 そんな危機感を、否応なく持たされましたよ。


 私は幼いころから、ピアノとバイオリンを習っておりました。アイドル時代は特に楽器を演奏したりすることはありませんでしたが、プロフィール欄の特技のところには、ピアノとバイオリンと書いてもらっていました。

 昔取った何とやらではありませんけど、思うところあって、バイオリンを改めて習いに出て、それと同時に、作詞と作曲の勉強も始めました。

 曲を作っているうちに、なぜか、どんな言葉を乗せていけばいいのかが、自分でも不思議なほど湧いてくるようになっていました。ただ、何も学ばないだけならそのネタはいつか枯渇しますよね。ですから、さまざまな詩集や小説、さらには映画などを今まで以上に真剣に読み、視聴するようになりました。

 その甲斐あってか、今もこうして、音楽を仕事とできているだけでなく、夫の姉の子である一花の個展に合せてリサイタルをするなど、今まで以上に音楽家としてよりむしろ、「芸術家」としての幅を広げさせていただいております。


 米河さんの姪御さんが出てきた夢の話、夫より、興味深くお聞きしました。

 おそらくはその娘さんにとって、自分と血のつながった親族の中で社会的に最も強者であるとみなされたであろう米河さんに対して、夢という舞台を通してこんかぎりの手を打って意識を持たせるだけのことができるというのは、障害を追っている分、その度合いに比例して、そのような方向への力が発揮できているのではないかと、私には思えてなりません。

 現に、一花の絵や日頃の言動を見ておりましても、そのような傾向が以前から伺えていますので、私には、特別驚く程のことではなかったものの、やっぱりな、という思いの方が、むしろ強かったと言えましょう。


 今一つまとまりが悪いですが、どうかご参考になれば幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る