第52話 見ることとは、見られていることと同義
米河氏は、目の前の珈琲を飲み干し、チェイサーの水を少し口に含んだうえで、答える。まだ水はグラス内に幾分残っている。時間的には、笑点の大喜利が放映されている頃。この時期ともなれば、外はまだまだ、明るい。
貴殿の弁には、ほぼ全面的に同意する。
さらにわしなりに話を加えて一般化するなら、こうだ。
相手を見るということは、相手からも見られているということ。
例えば、わしは毎週、御存知の通りプリキュアを観ている。現に今日も観た。
ところでプリキュアの側からしたら、どうだろう。
リアルじゃないとかアニメの二次元だとかいうかもしれんが、それはこの際、本質的な問題ではない。因縁つけだとまでは言わないが、主論点足りえないとだけは申しておこう。実はだな、プリキュア、正確にはそのプリキュアという番組で描かれている、いや「出演している」キャラクターたちはだな、その番組を見ているひとりひとりを、実は、しっかりと「観ている」ってことになるのよ。
もちろん、わしもその「観られている」なかの一人だ。
本来の視聴対象でない人間だと言われればまさにその通りで否定する気はないが、やはり毎週観ている以上、毎週、わしは彼女たちに見られているという次第である。
幸か不幸か、相手がリアルに実在じゃないから、見られているという感覚を持てないだけのこと。実は、見られているのよ。それに気づかないってのはな、わしに言わせれば、レーダーや暗号解読で既に動きを察知されているのに気づかないまま戦闘を続けている軍隊と、まあ、いつの戦争のどこの国の軍とか具体例は指摘しないが、それと同じってことなのよ。
ここで、女性店員がおかわりが必要か尋ねに来た。
そろそろ店を出るからということで、作家氏がデビットカードを出して2人分の会計を済ませてもらうことにした。
おかわりは、珈琲も水も含め、両者とも辞退している。
なるほどな。
それで君は、SNS上やブログを通して、プリキュアの登場人物と自分の掛け合いを描いているわけだな。
あれはあれで、こちらは大いに楽しませてもらっているよ。
まどかに至っては、君のブログとSNSのプリキュアが登場する記事を楽しみにしているほどでな。ぼくがその存在を教えたが最後、娘まではまってしまったぞ。
まあ、あの子が生まれた頃にはすでにプリキュアシリーズは始まっていたし、小さい頃から、毎週日曜日の朝は楽しみに見ていたからね。一時期「卒業」するかと思ったが、まあ確かに、どこかのおっさんみたいにぬいぐるみとか、ましてやおもちゃなんかを買うことはなくなったけど、毎週ずっと、見続けている。
観られないときはもちろん、録画ときており、妻が気を利かせて、毎週録画してくれている。さすがにどこかのアホ作家みたいにだな、放映時間は携帯の電波を切って気合を入れて云々とか亡命だとか何とか、そんなわけのわからんことはしても言ってもいないけどな(苦笑~米河氏より、「ほっとけ」との声もあり。)。
まあしかし何だ、いろいろ思うところはあるけど、今日はこのへんにしておこう。
で、この度の大宮さんご夫妻の夢の話、うちの家族にも伝えてみる。
どんな感想が来るかは、お楽しみに。
メールで送るからせいぜい首を洗って待っておきたまえ、ってことで、よろしく。
標的はもちろん、大宮さん御夫妻ではない。大作家殿であるぞ(苦笑)。
ラウンジを出た彼らは、それぞれの目的地へと向かっていった。
時間的には、笑点の放送が終わる頃。
新幹線に乗った賀来氏は、その日のうちに東京の自宅へと戻った。まだそれほど遅い時間でもなかったので、迎えてくれた妻と娘に、この日の話をした。
二人とも、興味深そうにその話を聞いていたという。
翌日の夕方には、賀来氏から米河氏にその件でのメールが入った。
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