第49話 その夢というのは・・・
「しかし、なんでまたわしの姪は、そんな人さまのところまで夢で出張ってくれたのやら、わしには、ようわからんなぁ・・・」
何とも言えぬ話をこの一日散々聞かされていたこともあってか、思わずため息を漏らすかのように述べた米河氏の弁に、賀来氏は答えてきた。
「ぼくにその実態を何なり説明しろと言われても困るしそもそも無理筋だけどな、そりゃあしかし、すごい話になったものだなとしか言いようがない。ただ、君自身も以前ほら、こちらのエッセイで書いている通りの夢を見たとのことだが、改めて尋ねるが、これはフィクションではなく、君にとっては実話なのだな?」
「それは確かに、実話なのよ。わしがあのエッセイで書いたとおりの夢を見たという立証は、誰にもできない。賀来博史とかいう政治家がとんだ権力の持ち主で、なんかあちこちに手を回したところで、そんなもの、立証のしようはないだろう」
「なんだか、ぼくが恐ろしい権力の持ち主でそこらの税務署か警察権力か、はたまた検察庁を黙らせるような力の持ち主みたいに言うけど、一応名誉のために申しておくけど、そんな力、ないですからね(苦笑)。それにだな、その権力使ってアホ作家の脳みそに現れた夢なんか、何が悲しくて立証しなきゃいけないンだよ(爆笑)。他にゼニになることとか何とか、よっぽどあろうものだ」
「いやいや、アホ作家の脳みそを分析できたら、ノーベル賞かもしれん。やってみる価値あるかもよ、科学立国ニッポンの起爆剤にはなるかもしれん」
「なるわけないだろ。君と母上様のDNA鑑定と一緒。やるだけ無駄!(苦笑)」
あほらしいような何とも言えない会話が少し続いたが、これは決してお互いをけなし合っているわけでもない。彼らにとっては、数十年来続けている会話の一環に過ぎないので、お互いそれでどうのこうのということはない。
「それはともあれ、ぼくが一昨日の朝、まどかと妻にこれを改めて読んでもらってどんな感想をもらったか、お話しておいたほうがいいかもしれんな。今日の大宮さんご夫妻の話も、明日か明後日あたり、二人にはしてみるつもりだが、問題ないか?」
「ないどころか、ぜひ、リポートをお願いしたい。で、娘さんと奥さん、どんなご感想をお寄せになられた?」
まだ、日は高い。東京にこの日のうちに戻れる新幹線は何本もある。
彼らは改めて珈琲のおかわりと、チェイサーの水を頼んだ。
程なくして、補給用の水分がテーブルに補充された。
珈琲と水の補給されたのを見計らい、賀来氏は、自らの姉と弟の話を始めた。
ぼくには、御存知の通り、姉と弟がいる。
弟には、息子と娘が一人ずついる。
姉は今、結婚して神戸にいて、娘と息子が1人ずつ。ここまではかねて君もご存知のところであろうが、実は、姉の娘、ぼくからすれば姪なのだけど、彼女もとある障害を負っていてね、養護学校に行っていた。
今は20代の半ばで、普段はとある福祉系の作業所に通っているが、君の姪御さんのように施設で過ごさねばならんほどではないだけ、ましといえばましだわな。
小さい頃は、まどかもよくその子と遊んでいた。まどかのように学力面では高くないかもしれないが、ある意味、芸術家の範疇に入る仕事をしてきた叔母、まあ、ぼくからすれば妻だが、それよりも感受性は強い気さえする。
叔母であるぼくの妻のように子どもの頃から芸術方面に力を注いできたわけじゃないが、もしそうしていたら、すごいことになっていそうな気も、しないではない。
実際、絵の才能はあるみたいで、個展を開いたみたいだよ。
実は昨日、その個展を神戸で見てきたところでね。妻は今日も神戸にいて、姪の個展を手伝ってやっているよ。ついでに、その会場でバイオリンのリサイタルもしているそうでね。まあ、傍から見れば芸術一家そのものだよ。
ぼくには、そんな才能、どこをどう叩いてみても、ないけどね(苦笑)。
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