夢たちの交差点 ~それぞれの、その後 3

第48話 今日に今日のお話

 大宮夫妻と会ったその日の夕方、岡山駅前のGホテルのラウンジに話を戻します。

 ちょうどこの日の夕方が、これまでお話しているところなのです。

 時刻は17時を幾分回っているところから、リスタート。


「今日に今日聞いた話、しかも、その夢は一昨日ってことか?」

 賀来氏の問いに、米河氏は答える。

「そう。そのとおり。今日に今日のお話やねんで・・・」


 全勝の冒頭で紹介した夢のエッセイについては、かなり前に公開されていたものであり、賀来氏はその記事も、すでに読んでいた。それだけではない。この日ひょっとするとこの話があるのではないかと、東京の自宅にある書棚から探し出して、選挙区でもある地元の岡山に戻るにあたって鞄の中に入れて、新幹線の車中で改めて読み直していたというではないか。


「別に、オレは君がこの話を今日に今日するものとは思っていなかったのだが、どうもな、金曜の朝に、こちらに戻る準備をしていて、気になってね。それで、書棚から家探しほどではないけど、何とか探し出して持ってきていたのよ」

 賀来氏もまた、あの日、何かを感じていたという。さらに、続けて述べる。

「あの日の朝、思うところあって、うちのプリンターでコピーして、娘のまどかと妻にも読んでもらったよ。君のこの夢の話」

「で、お二人の御感想は?」

「なんか、不思議な夢だって、異口同音に述べてきた」

「だろうね」

「うちの妻は音楽家で、御存知の通り作曲もするけど、創作の足しにでもなりそうなことを言うかなと思ったら、案の定・・・」

「あんの、定?」

「新たな作曲のヒントというより、自分の過去の作品を検証する参考になりそうな気がしてきた、とか、言っておったよ」

「はあ、こんなものがそんなところでお役に立つような代物かな?」

 謙遜とも何ともつかぬ弁を、賀来氏は決して見逃したりはしない。

「じゃあお聞きするが、君はかねて、小説はほとんど読まないし、読むのは主としてノンフィクションや論文のほうが多いと述べておいでだな。それでも君は、小説を書いている。小説を書くのに、小説以外が役に立たないなんてことはないことは御自身が最も肌身でよくわかっていると思われるが、いかに?」

「ま、まあ、そう言われてみれば、否定はできんな(苦笑)」

「音楽家の妻にしても、小説などからヒントを得ることは十二分にありうる話だと思うぜ。現に、君の傑作以外にも、ヒントを得た小説や映画はいくらもあると言っているからね。で、だ、百歩譲ってもらって、米ちゃんの作品群が世にもひどい駄作の吹き溜まりであるとしても、なおそれは通用する話。傑作と目されるほどのものができれば、それはもう、言わずもがなではないか。基本的には、まともに読めて人に何か影響を与えられるだけの作品のほうが普通に人に影響を与えるとは思うけど、それはそれ。とはいえだな、自作をケッサク中のケッサクとまで言ってしまうと、こっちのほうがよっぽど、君にとっては嫌味が強いだろうけどな」

「冗談なら、言わんこともないけどね(苦笑)」


 それにしても、偶然というのはこういう形で起こるものなのかなと、両者ともこの一連の話の推移にいささか面喰いながら話が進んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る