第44話 柔道部の甥と、鉄道研究会の伯父

 たまきちゃんとぼくで夢のすり合わせをしているうちに、かの御仁・マニア氏が以前ぼくらに語っていた、夢の話を思い出した。

 どちらが先というわけでもなく、気付いたら、その話になっていた。


「マニア君は小学生でO大学の鉄道研究会に「スカウト」されて通い始めて、いわゆる部活動は他になく、これだけでずっと大学まで通した。これに対して、彼の甥御さんは、伯父のマニア氏いわく、子どもの頃からなぜか柔道を習っていて、中学に入って早速、柔道部に入るってご両親に言ったらしい。一見そこには何の接点もなさそうだけど、意外と、共通点があるように思えてならないのよ」

 ぼくのこの疑問、たまきちゃんは即座に反応してきた。

「確かにね。あの子は昔からどこか、そういう武道の世界というか、そういう人たちとよく似た言動をすることがたびたびあったじゃない。それが証拠に、このところいつもSNS上で「押忍」なんて言っているでしょ。それだけじゃなかったわよ」

「それだけじゃなかった、とは?」

「あの子が大学を卒業してしばらくして、後輩から何やら相談を受けたとき、自分の意見を述べるまではいいとしても、一言付け加えて、「形は問わないが、瀬野さんには、礼を尽くしてほしい」なんて述べたこと、あったわよね?」

「あったね。あいつなんだ、柔道場か空手道場の道場主みたいなことを言い出すのかと、実はぼくもその現場に居合わせたけど、なんか、意外性にあふれていた」

「あの瀬野八紘君との対話のときも、確かに周囲に人がいると、プロレスよろしく罵倒合戦をするのはいいけど、1対1のときとか、しかるべき時には、どちらも言葉を選んで、丁寧に話していたじゃない。太郎君が言うところの、コントロールが売りのプロ野球の投手と、その投手の決め球を打ち返す打者の対戦のような・・・」

 そうそう、確かに、そんな話があった。

 ぼくは、その話を踏まえつつも、夢の話題に戻した。


 そこでさ、今日のお互いの夢だが、一緒に同じ場所で寝ているわけでもないから、これは当然、「異床」ってことになる。夢の内容自体も違うから、「異夢」には違いない。もっとも、同じ人物が出てきて、同じように振袖を着ていたかもしれないけれども、その振袖の柄はまったく違う。ただ、彼女からすれば母や伯母にあたる人物に由来する着物という共通点は、厳然としてある。夢の話で現前もあった者かと思うけど、ここはこの言葉くらい適切な言葉もないと思うけどな。

 話題にしても、彼女の伯父にあたるあのマニア氏に関わる「問合せ」というか、言葉を変えれば「照会」なんて表現でもいいかもしれないけど、そういう内容だし。もちろんそこには違いもある。

 たまきちゃんのほうには伯父さんの中学生の頃、それこそ彼女の弟クンがこの春中学生になることもあってか、同じく中学生だった頃の伯父の姿を聞いてきたってことになるよね。これに対してぼくには、どちらかというと成人後の伯父の人となりというか、そのあたりのことを中心に尋ねてきた。

 なぜぼくらに対して彼女がこうして、手と品を変えて出てきてこういうことを尋ねてきたのかはよくわからんが、その子にとっては、伯父であるマニア氏のインパクトは、さぞや大きかったのだろうね・・・。

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