第43話 夫婦で、夢のすり合わせ

 ぼくら夫婦のスマホは、どちらも通話料無料のプランに入っているので、少々電話の話が長くなっても問題はない。

 お互い時間がないわけでもないので、そのまま少し話をすることに。ぼくが見た夢を一通り説明したところ、たまきちゃんもまた、自分の見た夢を話してくれた。

 これは新婚のときの「やくも」の夢やその年の秋のお経青年の夢とは、幾分違った様相を呈しているように思われた。


 そこでぼくなりに、自分の見た夢とたまきちゃんの見た夢の「すり合わせ」、つまり、その相違点を確認してみようと提案。彼女にも、異存はない。

 まず、出てきた人物が若い女性で、振り袖を着ていた点。

 実は出てきた彼女に対して、どちらも、その振袖のことについて彼女から聞かされていた。たまきちゃんのほうは明るめの色で、母方の伯母、つまりマニア君の上の異父妹が成人式のときに着ていたものを改めて仕立てたものだとのこと。ぼくのほうはそうではなく、少し落ち着いた色で、彼女の母親、と言ってもマニア君の下の異父妹ということになるが、そちらが成人式のときに着ていたものだと言っていた。

 ぼくもたまきちゃんも、どちらも、彼女が自分の着ている振袖の由来について語っていたことを、鮮明に覚えていたわけね。


 あれれ?

 なんだか、ここからして微妙な差が出ているぞ?!

 でも、本質的なところで共通点も、見受けられる。

 話の内容についても、たまきちゃんにはマニア君の中学時代のことを尋ねていたのに対し、ぼくに対しては、成人後、それも彼の姪が生まれた頃から後のことを中心に尋ねていた。

 そこが、違いと言えば違い。


 さらに言うと、たまきちゃんに対して彼女は、自分の弟、マニア氏からしてみれば甥にあたる少年がこの春で中学生になるということで、姉弟共通の「伯父」になるマニア氏こと米河清治氏の中学時代について興味を持って尋ねたいと述べたという。

 ぼくに対しても確かに、彼女は自分の弟がこの春で中学生になること、さらには柔道部に入ろうと思っているみたいだと述べてきたが、特に中学時代の伯父さんについて尋ねられたわけではない。むしろ、大学卒業後、今の伯父さんはどうしているのかに興味を持って尋ねてきたように見受けられた。


 そうそう、こんなやりとりもあったっけ。

 その弟が生まれる数日前、彼女は両親とともに伯父であるマニア氏と会っていて、伯父が母のこと、つまり、姉弟からすれば祖母になる人物を評して、「明治時代の寒漁村民」という言葉を述べたとき、笑うしかありませんでしたと述べていた。

 彼女はさらに笑いながら、こんなことを言っていた。


 その言葉が生み出されたベースについても、そのとき、ヒトラーやチャップリンや青島幸男がどうこうと述べておりましたけど、どうやら、チャップリンに対してヒトラーが言ったという「うんざりするほど不愉快なユダヤ人軽業師」という言葉を、独裁者(チャップリン監督の映画)の解説で、青島幸男さんが述べていたのを、高校生の頃に聞いていて、それがベースになったと、伯父は申しておりました。


 彼女は少し間をおいて、ぼくにこんなことを言ってきた。


 しかし、そのくらいの言葉を瞬時に思い付くほどの人だからこそ、伯父は小説家にになってやれているわけですよね。


 これには、さすがのワタクシも、しびれましたよ。

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