第42話 夢なら、こちらにも・・・

 出張先のホテルにいる太郎君からの返信は、思ったより早く来た。

 彼もまた、夢を見たらしい。

 メール交換では断片的な情報のやり取りにしかならないから、とにもかくにも、今電話で話せる状況かどうか、尋ねてみた。

 すぐに、電話を掛けるから少しだけ待ってという返信が来た。

 程なくして、太郎君が電話をかけてきた。


「ぼくも、確かに夢を見た。またあいつ絡みだよ。ただし、奴は出てこなかった」

「奴って・・・」

「あのマニア君以外の誰でもないに決まってるじゃないか」

「やっぱりね。そうだとは思っていたけど、どんな夢だったの?」

 太郎君は、つい先ほど見た夢のことを話し始めた。


 ぼくのほうはというと、確かに、たまきちゃんのほうと同じく、振り袖姿の女の子が出てきた。ちゃんと名乗ったうえで、あのマニア君の姪であることも明言された。

 で、こんなことを聞いてきたのよ。


「伯父は、祖母のことを「明治時代の寒漁村民」とか何とか申しておるようですが、大宮さんの周囲の方にも、そのようなことを言っていますか?」

だってよ。

 ともあれ、その件について何とかわかる範囲で、答えたよ。


 彼はそうだね、あなたが生まれた頃、ふとそんな言葉を思いついてか、ぼくらはもとより、あちこちでそのような表現をしているみたいです。最初聞いたときは、こいつまたなんでこんなことを言い出すのか、自分の親に向ってそんな表現はないだろうとたしなめようとも思ったけど、何かね、それも馬鹿馬鹿しくなって、今まで特にあなたの伯父さんに対してそのことでたしなめてはいない。

 ただ、その言葉を聞いたO大出身のXさんという方がいて、その方がその言葉を聞かれたときに、米河さんにこういい返されたそうでね。

「母上様が明治時代の寒漁村民なら、そういう貴様は、大正時代の酔っ払いだろう」

とかなんとか。

 それを聞いた米河さんは、何を思ったのか、その「大正時代の酔っ払い」って言葉をえらく気に入ってか、自分のあだ名のひとつにもされちゃってねぇ。フルネームも面倒になったのか、彼は、「酔っ払いさん」と自分で名乗って、これで大義名分はついたとばかり、懲りずに毎日、酒を飲んでいる。

 自分で自分を酔っ払い呼ばわりしていれば、世話はないよな。

 しかしながら、あなたの伯父さんは、確かに酒をよく飲むけれども、酒を飲んで怒ったり暴れたりなどもしないし、飲んだが最後、性格が変わるなんてことさえない。淡々と、飲んでおられる。

 人の迷惑になるような飲み方は、されていないよ。

 だから、ぼくらとしては、彼に対して成人後ずっと、特に酒を飲むなとか何とか、そういうことは、申し上げていません。


 おおむね、こんな感じで彼女に申し上げたところ、彼女は少しばかり安心したようでね。ただ、もう一つ、質問してきた。

「祖母の話では、伯父は大学を卒業する頃からこの方、セーラームーンを観ていると聞かされていましたが、最近はどうやら、プリキュアを毎週観ているようです。叔父は昔から、そういうアニメに興味を持っていたのでしょうか?」

 これに対しても、きちんと答えておいたよ。


 私が彼に会ったのは、高校3年のときでした。彼がちょうど、中2の時でね。

 その頃は、なんせ鉄道研究会に小学生から出入していただけのことはあって、なかなかの「鉄道少年」でした。特に、同世代の人たちのようにアニメなどに興味を持っていたわけではないが、松田聖子とか、当時のアイドルの歌は、好んで聞いていたっけ。当時大学生の先輩たちの中に、松田聖子の好きな人が何人かいて、そんなこともあって、彼は今でも、松田聖子の歌なら何十曲も歌詞なしで歌えるほどだ。

 アニメなんかに興味を持つようになるとは、当時は思っていなかったな。

 あんなにもはっきりとアニメを観ることを公言するようになったのは、やっぱり、セーラームーンの頃からかな。しばらくお休みしていたみたいだが、いつの間にやら今度は、プリキュアにはまってしまったみたいでね。

 あなたやあなたのお母さんとは血のつながりはないけど、君の伯父さんのお父さんのほうのおばあさん、満で50歳になるかどうかのとき、ちょうどあの伯父さんが6歳になってすぐの頃に癌で亡くなられたとお聞きしているが、そのおばあさんよりもすでに彼は、長生きしていることになるのよね。

 その割には、毎週日曜日の朝ともなると、携帯の電波もすべて切って、プリキュアの放送をリアルタイムで観ることをこの5年近く、「皆勤」でやっている。

 私個人としては、いい歳のおっさんが何やってやがるのかとは思うけど、これはまあ、個人の自由だからね、それに、さっきも述べた通り、君の伯父さんはそういうことで人に迷惑かけているわけでもないから、特にぼくらも、米河さんにその件で注意したり、まして彼にケチをつけたりなんかしたことはない。


 それだけ聞いたら、彼女は、私にお礼を言って、去っていった。


 そうこうしているうちに、目が覚めて、その夢のことを思い出すともなく思い出しながらコーヒーを飲んでいたら、たまきちゃんからメールが来て、そちらも夢を見たっていうからびっくりしたけど、まさかな、あいつ絡みの夢をほぼ同時に、同じ人物が登場して見せられるってのも、何だかな・・・、って思っていた矢先だよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る