第35話 異床同夢のそのあとに・・・
その日は、鉄研の会場以外の場所も取材したけど、この日は特にこれ以外の仕事はなかった。そのまま自宅に直帰しようとは思ったが、特に食事も作っていなかったので、せっかくだからどこかの居酒屋に寄って太郎君と一緒に飲むことに。
「たまきちゃん、あの夢、いったい何だったのかなぁ・・・」
乾杯してビールのジョッキを置いて、太郎君がぽつりと漏らす。
「なんだったのかしらね。しかし、「大宮夫人」だけは、「シバレタ」わよ」
思わず、北海道の方言を入れてしまったけど、まさにあの場であの言葉は、そうとしか表現のしようがないところだったのが本音。
「もうこの際、現姓に変えて仕事してみたらどう?」
そこまで言い切った太郎君は、生ビールを飲み干し、おかわりを注文する。
まさか、あの子と結託して、そんなことを・・・、そんなわけもないか。
でも、それをすると、あの夢と今日の現実は・・・?
いろいろ思うところがあったけど、なぜか、ビールを飲むとスッキリしてきた。
「じゃあ、そうしようか。今度の番組で、発表する場を入れてよ」
私の提案に、太郎君は、二つ返事で賛意を示した。
「結局、あいつのお経の夢と現実が、そういう方向に進むきっかけになったようだね。やっぱりあいつは、史上最強のキューピットかもしれない」
そんないいものじゃないとは思うけど、ひょっとすると、そうなのかも。
結局、その次の私たちの番組で、旧制海野を改め現姓の大宮で仕事をしていくことを発表しました。
だけど、「大宮夫人」だけは、勘弁。
私は夫である太郎君の従属物じゃないとか、そういう野暮なことは言わないけど、あんな場所であのシチュエーションであの子に言われたことばかりは、やっぱり、少しばかり、今思い出しても、いささか癪に障るような感じ、です。
「それ、私のお経の功徳かもしれませんね」
マニア君は後に、私に対してそんなことを言ってきた。
「私としてはやっぱり、松井選手の交渉権で御利益あって欲しかったですけど。やっぱり、ラッパさんと同じ運命をたどったというべきでしょうか、いやはや・・・」
さすがに私もちょっと、こればかりは癪に障ったので、言い返してやりました。
「何がお経の功徳よ! 御利益よ! 罰が当たったのよ、バチが! そんなことでにわかにお経なんか唱えても無駄ってことが、良くお分かりになったことで!」
マニア君は、何とも答えようがなかった模様で、苦笑いを浮かべていました。
その後、居合わせた太郎君の言った内容が、あまりにもふるっていました。
自分の欲どおしい願いなんかでお経を唱えたって、そんな都合のいい御利益なんかあるわけもないだろう。その結果、彼の交渉権は巨人の手に行ったってわけね。
まさに、都合のいい御利益を願った人間の末路の象徴じゃないか(爆笑)。
でも、そのお経は欲どおしい願い以外のところで、御利益があったかもしれないな。ぼくにとっては、またとない御利益ってことだよ。
こればかりは、マニア氏に礼を言わなきゃね。
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