第33話 大学祭会場でのドラフト会議中継 3

 何人かの人だかりができているところに、取材のため、2人で接近。

 音源をオンにして、マイクを持って私がナレーター。


 ××ラジオのレポーター、海野たまきです。私は今、O大学の大学祭会場に来ています。こちらは第二体育館の、鉄研こと、鉄道研究会の展示が行われています。

 どういうわけか、テレビの前には、人だかりができていますが、こちらではなんと、プロ野球のドラフト会議を中継しているようです。

 ちょっと、様子を見に行ってみましょう。

 

 一通り前口上を述べた後、ふと前を見る。

 模型が走る音とテレビの声の他に、なぜか、人の声が聞こえる。


 南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、・・・・・・・


「あいつ、ホンマにやりよる・・・」

「やっぱり、あの子、やっているわねぇ・・・」

 太郎君と顔を見合わせ、とにかく、取材に入ることに。

 そうこうしているうちに、松井選手の1位指名は4球団競合になった模様。


「それでは、これから、御集りの皆さんにインタビューしてみたいと思います」


 私はまず、お経を唱える謎の青年ではなく、その横の青年に尋ねた。


「こんにちは」

 私の呼びかけに応じて、高橋君が答える。

「こんにちは。**ラジオの海野たまきさんですね。鉄研元会長の高橋由浩です。今日は、同級生で阪神ファンの米河清治君と、松井秀喜選手の行方を、それぞれ、ひいき球団の帽子を被って見届けようということで、こういう企画を考えました」

「高橋君は、松井選手はどこに行くと思いますか」

「そりゃあもちろん、うちに決まっていますよ。巨人ですって。見ていてください、海野さん。数年後には松井四番で、巨人は史上最強打線になりますよ!」

 

 南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・


 相も変わらず、横の青年はお経を一心不乱に唱えている。

 合わせた両手には、ご丁寧にも、数珠が握られている。

 なんだか、あの夢・・・。

「おい米ちゃん、もうあきらめえや。松井はうちや。往生際、悪すぎやで」

「何を言うか高橋君。わしゃまだまだあきらめへんで。南無妙法蓮華経・・・」


 相も変わらずお経を唱える青年に、意を決してインタビューをすることに。

「阪神ファンの米河君は・・・」

 数珠をますます強く握りしめ、御経をひたすら唱えるマニア氏。

 私が声をかけるや否や、右手に数珠を握り締めたまま、話し始めた。

 

 南無妙法蓮華経・・ア、海野さん、もとい、大宮夫人、こんにちは。

 松井選手の交渉権ですね?

 そりゃあ、もちろん阪神、我らが大阪タイガースです。

 松井入団で、わが大阪タイガースのダイナマイト打線の復活です!

 一番センター呉昌征、二番レフト金田正泰、三番ライト別当薫、四番サード藤村富美男、五番キャッチャー土井垣武以来の、真の黄金時代の到来でっせ!

 ダトーナガシマ!

 フレーフレーナカムラ!

 南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、・・・・・

 

「公知の事実とはいえ、誰が「大宮夫人」だ、コラッ」

とは思ったが、そこはあえて、何も言わずに、インタビューを打切ることに。


 南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、・・・・・・


 御経青年のもとを離れ、こんどは、近くにいた年配男性にインタビュー。


「どちらから来られましたか?」

「近所の笹が瀬町です。毎年、O大の鉄研の展示、楽しみにしています」

「今年の鉄道研究会の展示はどうですか?」

「いつもですけど、今年も、なかなかいい研究されていますね」

「なぜドラフト会議をここで?」

「ついでですわ」

「松井選手はどこに行くと思われますか?」

「阪神に来てほしいけどねぇ・・・」

「ありがとうございます」


 私はインタビューを終え、近所のおじさんから離れた。


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