第32話 大学祭会場でのドラフト会議中継 2
「やっこさんが史上最強のキューピット? ということは、ついに、キューピットたまきの弟であると立証できるな。ミイラ人間たまきに対して、元ミイラ取りの特大ミイラの弟と併せて、がっちり証拠を固められたってことだね」
「ちょっと太郎君、なんなのよ、それ。私は御存知の通り、一人っ子です。あなたもそうだけど。うちにはあんな弟は、おりませんから、ええ・・・」
そうこう言っているうちに、ついに、その日が来ました。
私たちは、✕✕ラジオ本社からタクシーを利用して、O大学の会場近くまで移動しました。どこから入れば新体育館に行けるかはもう熟知していますから、そこはうまいこと、タクシーの運転手さんに頼んでそのあたりで降ろしてもらい、にぎやかな大学祭会場へと入っていきます。
この日はなぜか、学生会館前に設けられたステージで、女装大会が開催されている模様。前日電話で打合せしたとき、松田聖子の歌を何十曲も空で歌えるマニア君に、女装して青い珊瑚礁でも歌ったらと話を振ったら、こんなことを言っていた。
「ちょっと待ってくださいよ、たまきさん。仮にも私は、鉄道研究会の人間であります。諸先輩方がいつ来られるとも限らない大学祭の会場で、そんなふざけた真似、というか、恩を仇で返すような真似、立場上出来ませんって。勘弁してください」
彼は存外、こういうところで真面目なところがあるから、その答えには私はそう驚きはしませんでした。
「そこまで言うのなら、まさかあなた、そのドラフト会議の中継で変なことしないわよねぇ、陣中見舞いに来られた諸先輩方の前で、わけのわからないことなんかしていたら、立場がないんでしょ?」
「そりゃあ、そうですよ。真面目に、やります。押忍!」
鉄道研究会一筋でスポーツや武道など全く経験ないのに、このマニア君ははどういうわけか、そういう筋との親和性がどこかにあるみたいで、こういう時には、どこかの柔道か空手の道場の人みたいなことばをつけて話を締めることもある。
私たちは最低限の機材を持って、勝手知ったる母校の体育館へとつながる路地を通り抜け、会場の新体育館に入っていった。いつもは土足禁止のこの地も、この日に限ってはシートを敷いていて、土足で入れるようになっている。
鉄研こと鉄道研究会の展示会場に到着して、周りを見渡した。
例年通り、模型の運転が行われている。模型の列車が走る音とともに、テレビの音声が流れてくる。もうすぐ、ドラフト会議の中継が始まる模様。
あのマニア君は、阪神の帽子をかぶって、巨人の帽子をかぶった高橋君と並んで、何列か並べられたパイプ椅子の最前列の真ん中に座っています。
さて、取材開始。
模型を運転している教育学部の島瀬君と医学部医学科の村中君、彼らはどちらもマニア君や高橋君たちと同学年で、私も何度か会ったことがあるので面識があります。とりあえず、彼らにそっと挨拶。彼らも状況を察してくれていて、テレビ付近の人たちに気付かれないよう、あまり大きな声を出さずに案内してくれました。
早速、問題のテレビがあるあたりへ、太郎君とともに移動しました。
私たちがその場所に向かい始めたと同時に、どうやら、松井選手を指名する球団が一つ、出てきた模様。
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