第31話 史上最強のキューピット?!
そうそう、太郎さん、1960年の日本シリーズ、大洋対大毎の大洋が1点差で4試合とも勝ったあのシリーズで、オリオンズのオーナーの永田雅一さん、あのラッパさんが、オリオンズのピンチになるたびに、それぞれチームの帽子をかぶって並んで観戦していたホエールズの中部オーナーさんを横に、何や、数珠持って法華経を唱えていたって話がありましたよね。あれ、効果があったのやらなかったのやら。
ともあれ、今度、ドラフト会議、あるやないですか。
うちの鉄研は、その時間、学祭の展示場のテレビで、中継を予定しておりまして、高橋君と一緒に、それぞれ、松井秀喜の交渉権獲得成るかってことで、それぞれ巨人と阪神の帽子をかぶって中継を観ることにしました。
それでね、なんか、もうこうなったら神頼みでもしなければなということになりまして、どないしよか、思てまんねん。
確かうちは、真言宗やったから、この際、般若心経で行こうかと考えておりますけど、私、般若心経は空では読めませんから、なんか、手はないかな、と。
そんなこと、あのマニア氏は言い出して、ね。
あきれ果てて、何でも好きにしろと言って帰ってやろうと思ったのだけど、そういうことであれば、この際だから、自分の先祖の宗派は別として、同じ仏教なんだから、永田雅一さんに敬意を表して、法華経でも唱えてろ、って言ってやったよ。
そうしたら、あの鉄道馬鹿、こんなこと言い出したのね。
そういえば、オリオンズとタイガースは、1950年の毎日オリオンズ創設のときのいわゆる引抜きに始まって、選手の行き来の多い腐れ縁みたいな関係にあるから、確かに、ラッパさん(永田雅一氏のこと)のオマージュとして、法華経を唱えるのも悪くはないかもしれません、なんて、真顔で言いよった。
まさかあいつ、今度の学祭の会場でそんなことやりはしないかと、ぼくはいささか心配なのだけど、何かなぁ、夢でそんな光景が出てきたあかつきには、ちょっと、どう答えていいのか・・・(苦笑)。
太郎君の話を聞いて、怒るとか何とか、そんな次元を通り越して、もう、笑うしかないというか、何というか、朝から力が抜けてしまったとしか言いようのない思いに駆られて仕方なかった。それにしても、新婚のときの「同床同夢」に引続いて、今度は言うならば、「異床同夢」と言えそうなお話になったわけで、ちょっと私も、なんて答えていいのかわからない状態。
「でもまた、あいつかよ・・・」
太郎君が、あきれ果てたような一言。
「ひょっとしてあの子は、私たち夫婦を決定的に結び付ける史上最強のキューピットなのかも、知れないわね」
実は私、中学生の頃から周囲の大人や学友を結びつけることで、一部では「キューピットたまき」というあだ名を付けられたことがある。
彼も、ひょっとすると、私とは違った形かもしれないけど、ある意味、同じような能力? を持っているのかもしれない。
しかし、なぜまた太郎君は、あのマニア君をあおったりするのかしらね・・・。
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