第30話 変な夢、見た・・・
「いきなり飛び込んできて、何よ。夫婦だからいいようなものの、他の女の人のところだったら・・・」
部屋の中に飛び込むように入ってきた割には、意外に落ち着いているようにも見える太郎君が、答えた、というより、逆質問のような問いかけをしてきた。
口調は、すっかり、落ち着きを取り戻している。
「たまきちゃん、今朝のついさっき、変な夢見なかったか?」
・・・・・・
まさかと思いつつ、私はその夢の話を簡単に説明した。
「やっぱりそうか・・・」
「やっぱりって、どういうことなの? まさか、太郎君も?」
「そう。そのまさかが、起きた・・・」
太郎君は、自分が見た夢の話を始めた。
さっきぼくが見たのは、ざっと、こんなところ。
やっぱり、あのマニア君がだな、阪神の帽子をかぶって、テレビにかじりついて、何やらひたすらお経を唱えていた。あれは、法華経だな。ところであいつの父方も母方もどちらも真言宗と聞いているが、何で法華経なのかは、ぼくにはわからん。
まあ、何宗でも何教でもここはとりあえずいいとして、問題は、その夢の光景のほうだよ。
場所は、O大の新体育館のほう。明らかに、鉄道研究会の展示会場。なんせ、模型を2人ほどで動かしていたな。それで、別に設けられたテレビに、あいつと、もう一人、たしかあいつらの学年で鉄研の会長をしていた高橋由浩君って子だと思うが、彼は巨人の帽子をかぶって、横に座って、普通に見ていた。
問題は、もう言うまでもないけど、あいつ以外の誰でもない。あの馬鹿、阪神の帽子をかぶってだな、ご丁寧に合わせた両手には数珠を握っていると来たものよ。
で、ひたすら、お経を唱えていた。
なんか、その合間には、松井よ阪神に来いとか何とか、打倒長嶋とか、うわごとのように祈りか呪いかわからんけど、そんなことも口にしていた気がする。
不思議なことに、模型の列車が走る音は聞こえたけど、テレビの音声は、聞こえなかったのね。あれ、まったく不思議だった・・・。
で、ぼくが、横にいたたまきちゃんのほうを向いたとたんに、だよ、あいつら、一斉にわけのわからん歓声とも落胆ともつかぬ声をあげて、何が起こったのかってテレビのほうを向こうとしたら、目が覚めた、ってわけ。
・・・・・・
どうやら、彼もまた同じような夢を見たようね。
「ほとんど、私と同じような感じ。場所はと言われたら、確かに、あの新体育館の鉄研の展示場だった。テレビもあったし、あの子と高橋君らしき人がいて、それぞれ帽子をかぶって、何やら、テレビの前で熱狂していたのよね」
太郎君も私も、この頃になると、すっかり落ち着きを取り戻していた。
「なんかほら、新婚の日と同じような感じだね」
太郎君の問いかけに、私も同意。さらに彼が、話をつないだ。
「で、何、あのときもそうだったけど、今度もまた、あいつかって思うと・・・」
「そうね。またマニア君・・・。人騒がせの本質は、変わっていないっていうか」
とりあえず起き出している私たちは、そのまま台所に行って珈琲を淹れて、食卓の椅子に座って飲むことに。
最初の一口かそこらをすすった太郎君が、突如、何かを思い出したみたい。
「そういえば、あいつ、この前野球の話をした時、こんなことを言っていた」
彼がどんなことを言っていたのかと尋ねる間もなく、太郎君が、そのときの経緯を話し始めた。
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