異床同夢 ~正夢になるや、ならざるや
第28話 大学祭会場でのドラフト会議中継 1
私・大宮たまき(旧姓・海野)の夫である大宮太郎と正式に結婚したのは、確かに1992年です。それから間もない、その年の11月、あのマニア君が、また、とんでもないことをしでかしてくれました。彼の変な発想というか、よく言えば飛び抜けたというのは美化しすぎかもしれませんけど、あの「事件」は、あの年の私たち夫婦にとって忘れられないものとなってしまいましたね。
なんせ、私たちが取材に行ったO大学の大学祭の折、鉄道研究会が主催するブースの一角で、本来なら列車のビデオを流すはずのテレビ装置一式を用いて、ちょうど行われていたその年のプロ野球ドラフト会議を中継していたのですが、かの青年は、何を思いついたのか、ひたすらお経を読んで、ある選手の入団交渉権が阪神タイガースに行くよう、祈っていたのです。それも、周りに聞こえるような声で、ね。
そう、あの年の夏大きな話題となった、夏の甲子園での5打席連続敬遠の松井秀喜選手が目玉となった、あのドラフト会議のときです。
私たちは夫婦であるとともに、当時すでに××ラジオの同僚でもありました。
あの日の数日前、O大学の学生会館に鉄道研究会への取材依頼をかねて、太郎君とともに赴きました。
おかしなことが起こりそうな兆候は、この日すでにありました。
なんせ、あのマニア君こと米河清治氏が、大学祭の会場で、彼の同級生である高橋由浩君と話していて、どうやら、そのドラフト会議の中継を大学祭の展示会場で観るとき、それぞれファンである球団の帽子をかぶって、並んで観ようなどと話し合っていたのです。
太郎君は一応その会のOBですから、特に何も言わず、まあ、こいつらならこんなものだろうという感じで彼らの話を聞いていました。私はそもそも鉄道研究会とは一部の方とは御縁があったとはいえ、基本的に部外者ですから、特に何か口を出すわけにもいきません。とはいえ、マニア君は中学生の時から知っている人物ですので、彼に対してだけは、さすがに何か言っておかねばと。そこで、彼らの話が中断しているときを狙って、私はマニア君に向って、少しばかりたしなめました。
「会場で、変なこと言ったりしないようにね」
「なんでそんなところで変なこと言いますのや。私ら、普通に野球の帽子をかぶってドラフト会議でも観て、それ、次回の会誌のネタにでもしようかなと、そういうことを話しておっただけですねん。変な大声出したりなんか、しませんて」
「それなら、いいけど・・・。とにかく、わけのわからない言動はしないで」
「わかってまんがな」
こういう時の彼は関西弁で話しますので、いささか真面目に答えているのかと問いただしたくもなろうものですけど、ここはもう、そんなことで言い合いをしても、太郎君あたりから「姉弟げんかはやめろ」と茶化されるのがオチなので、この日はあえてマニア君には、それ以上のことは言いませんでした。
実はその日、厳密には翌朝となるのでしょうけど、私は、変な夢を見ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます