第11話 インディアンの伝言

6 インディアンの伝言 ~ 石本秀一


 先日久々に米河氏と連絡を取り、大宮太郎・たまき夫妻と米河氏の文章を拝読しました。どなたも私より幾分年下ではありますが、1980年代、食堂車と寝台車がまだ輝きを失っていなかった頃を知っている世代です。

 もっとも、米河氏は幾分若いため、実際に経験できたことは我々よりも少ないところはありますが、それでも、持ち前の「猛勉強」でしっかりこの世界で生きておられて、慶賀に堪えません。

 一時期、いろいろな意味で不調な時期があり、それで鉄道趣味の会播備支部に迷惑をおかけしたこともあったようですが、それはそれとして、彼が真の意味で「鉄道趣味人」として力をつけてきたのは、O大の鉄研や鉄道趣味の会といった、鉄道趣味者の集まる組織のくくりから離れ、一人となったそのときからかもしれません。


 たまきさんは新入生の頃から存じ上げておりますが、まあしかし、夫の太郎氏はともかくとしても、こんな鉄道少年など相手にしなくてもいいのにと傍では言われたことも何度となくあったにも関わらず、米河少年をよくよく「おねえさん」として導いていたようです。姉弟喧嘩のような言い合いを度々していると太郎氏から伺いましたが、まあ、たまきさん自体一人っ子で、そんな中、弟のような米河少年と出会えてよかったのかもしれません。

 何といっても、たまきさんの「表現」を極めていこうとするライフワーク、中学で放送部、高校で演劇部、そして大学で新聞部と、小学生以来わが鉄研一筋の米河君とはある意味正反対のサークル歴ですが、「表現を極める」というライフワークの構築は、誰にでもできることではありません。

 太郎氏は、難病を克服され、その過程で、プロ野球から鉄道へと興味を広げていかれた。何といっても野球と鉄道は親和性の高いファクターではあります。特に、プロ野球はね。大学などのサークルとしてはほとんど真逆の位置にありますが、それはある意味不思議ではあるけれども、意外とそうでもないような気もします。彼の趣味はプロ野球にウェイトがあり、その延長に鉄道が来た。米河氏の逆です。

 しかし、まあ、たまきさんの周りには、見事に同じような少年が集ったものですな。かたや、中学時代に病院の院内放送の人気DJ、かたや小学生で大学の鉄研にスカウトされた鉄道少年、どちらも、同世代の少年たちができそうでできない経験です。もちろん、どちらがいい悪いといった問題ではないですがね。

 それにしても太郎氏は、生死に関わる病気を経験しておられるだけあって、情緒も安定していて、バランスの良い見立てもできる。実によくできた人です。それには、たまきさんの存在も大きいでしょう。

 

 太郎氏とたまきさんの結婚式の日、私も招かれて出席しましたが、まあ、米河氏がスピーチで一席ぶって盛り上げてくれて、とは言うものの、お騒がせしたことは、いささか申し訳ありませんでした。

 とはいえ、なかなか面白い視点で、私としては十分楽しめましたがね。


 それはともあれ、その日の夜、私には、お二人や米河氏が見たような夢は、一切見た覚えがありません。というか、熟睡していて夢など見ていません。

 三人とも私とともに「料飲税」をうまく節約する手法を使って「やくも」の食堂車で飲み食いしたとのことですけれども、あの後聞かされて、正直、何なのかさっぱりわかりませんでした。まあ、その4人の中で実際に「やくも」の食堂車に行って食事をしたことあるのはというと、確かに、私だけですけどね。

 あの「料飲税」の手口は、実際、私も何度かやりました。

 ただし、会計を分けたのは3回にではなく、2回までです。

 当時でも1人あたり2500円にはわりに早く行きましたが、5000円を超えて一人で飲み食いすることは、ほとんどありませんでしたから。


 これも一種の「インディアンの伝言」みたいなもので、私が太郎氏や米河氏に話していたことがたまきさんにもほどなく伝わって、その3人の間でそういう夢を見る羽目になったのではないかと、私は踏んでおります。

 まあ、米河君のことですから、中学生の頃、たまきさんや太郎氏に181系「やくも」の話を大いにしていたことは、容易に想像がつきますがね。その一環で、私の話がいささか大げさに伝わって、それが彼らの夢になったのでしょうよ。

                         

                               (おわり)

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