第5話 初夜の夢・追幻想 2ー1
3 初夜の夢・追幻想 2 ~ たまきの夢
結婚式の日=私が28歳の誕生日を迎えた日の夢の話です。
無事、私たちの願いが成就したので、揃って出雲大社にお参りした帰り。
JR出雲市駅まで戻ってみどりの窓口に行くと、なぜか、1979年の日本国有鉄道のカレンダーが窓口の向こうに。職員の制服も違う。今日は1992年7月25日のはずなのに、どうやら7月23日。どういうことかしら?
あと30分ほどもすれば、岡山行の最終「やくも12号」が出るとのことで、二人揃って窓口で自由席特急券を追加して買って、ホームに。
この1979年というのは、私たちH市で中学生だったはずなのに、どういうわけか、二人とも大人に。1歳年下のままの太郎君も、今や、やさしくて頼もしい男性に。彼の肩にもたれてホームのベンチに座っていると、気動車の「やくも」がホームに入線。食堂車では従業員が営業の準備中。
私たちは、3号車の自由席の真ん中あたり、進行方向の左側の、宍道湖と大山が見える側の席へ。太郎君が窓側。列車は定刻で出雲市駅を出発。車掌さんの案内に続き、食堂車の案内。私たちは仲良く並んで座って景色を眺めていた。今日帰って、太郎君と何を食べようかしら。
やがて列車は、玉造温泉に停車。ふとホームを見ると、どこかで見た人たちが。後ろの2号車のドアから列車に乗った模様。
やっぱり、ね。
普段着の30歳ぐらいの男性は、なぜか、キャンディーズの鉢巻をしている。スーツ姿の男性は、蝶ネクタイに丸襟のダブルカフスのシャツ。腕には鼈甲のカフスボタン。誰かはもう言うまでもありません。どちらも、O大の鉄研関係者。創立メンバーでキャンディーズの熱狂的ファンだった偏屈ハカセこと石本秀一氏と、中学生ながらO大学の入学式で鉄研の勧誘ビラを配っていたという、あのマニア氏こと米河清治氏。まんまと見つかってしまいました。
結婚祝をするから、食堂車に行こうとおっしゃるので、私の自慢の髪をかき分けることを許された(義務付けられた?)唯一の男性が、私の右耳の前に手を当ててコソコソと相談。顔を横切って、彼の左側の耳元で私もコソコソ。このお二人はこの程度で冷やかしてはこないけど、何かある人たち。慎重にも慎重を期さなければ。
「じゃあ、ぼくら、食堂車に参ります。この度はお誘いありがとうございます」
「主人」の「宣言」に従い、私も、食堂車にお供することに。
4人で4号車のグリーン車を通り抜けつつ、白い制服に身をまとった車掌さんとすれ違い、食堂車に入ったとき、列車は松江に到着。また幾分、お客さんが乗車した模様。食堂車には、先客はいませんでした。
私たちは宍道湖と大山の見える進行方向左側の、調理室に一番近いテーブルに4人そろって席取り。太郎君と私は進行方向に向かって、業者さんたちはその向かい側に並んで座りました。
窓側は、今度は私とマニア氏。通路側は、太郎君と石本氏。
まずは、人数分のグラスとビールを頼み、早速、ご結婚おめでとうということで乾杯。暑い中、冷房のきいた車内でのビールは格別です。
目の前の人たちはちょっと・・・だけど、隣は、最愛の人。今日は食費も浮くので、新米主婦としては万々歳。
さて、石本氏は、ウエイトレスの女性に何やら会計の点で注文を出す。
一人頭いくらになるか、マニア氏の電卓を借りて、素早く計算。
マニア氏は、ほどなく手酌で飲み始める。
やがて、注文した料理が運ばれてきた。
太郎君はポークカツ定食、私はハンバーグ定食。
「はい太郎君、あーん、して」と言って、ハンバーグを一口、食べてもらう。
「じゃあ、たまきちゃんも。あーん、して」
と、今度は太郎君が私に食べさせてくれる。
毎日毎日、こういうことをし続けるわけでもないけど、これからもずっと、彼と一緒に食べていくことを思うと、とても幸せ。
さて、テーブルの向かい側、偏屈ハカセとマニア氏は、ステーキを食べながら、手酌でどんどんビールを飲む。あっという間に4本とも飲み終わったので、もう1本。
何杯かビールを飲んでステーキで少し小腹が満ちたころ、偏屈ハカセはマニア氏に向かって、ついに話を振り始めた。
「おい、あのアオチュウ、この前京都で、キセルがばれてなあ・・・」
ピカソの絵みたいな写真を撮るとかいうあの青木氏こと「アオチュウ」が、京都駅でヘマなキセルをして捕まった経緯をひとしきり。写真仲間の杉尾なる人物(マニア氏と同じくらいの年齢で、アオチュウ氏よりかなり若い)が京都駅で先に改札を出て入場券を買ってきてくれたのを受取り、それで出ればよさそうなものを、乗った駅からの140円の乗車券を出してしまったものだから、ばれちゃったそうです。
もちろん、そういう不正乗車がいいとは言いませんけど、これじゃあ、そんな次元を通り越して、もう笑うしかないレベルね。
このアオチュウさん、機関車につけられたブルートレインの「瀬戸」号のヘッドマークを宇野駅で盗もうとして、ヘッドマークを機関車から外したのはいいけど、その時に使った工具を落とした音がきっかけで国鉄の職員にばれて捕まったこともあるそうです。
経緯も確かにキセルの話と一緒で「どんくさい」感じですが、その時の言い訳がすごくて、
「ヘッドマークのない走行写真が撮りたかった」ということです。
しかも、あちこちに写真を撮りに行っては、列車の案内標識(「サボ」というそうです)を盗んでいて、国鉄だけでなく他の鉄道会社からもにらまれているとか。
先ほどのヘッドマーク盗みの件がきっかけとなって、アオチュウこと青木氏宅に警察が来て家宅捜索がされたとも。
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