第2話 「同床同夢」の記憶

1 「同床同夢」の記憶  大宮 太郎


 「同床異夢」ということわざがある。

 これは、同じ寝床で寝ていても、まったく違う夢を見ている、つまり、同じ場所にいても目的はまったく違う者がいる、という状況を指す。

 しかしこの言葉、よくよく考えてみれば、「同床」に対して「異床」、「異夢」に対して「同夢」という言葉が実は裏で対応しているからこそ成り立っていることわざともいえる。となれば、「同床異夢」だけでなく、「同床同夢」、「異床同夢」、「異床異夢」という言葉がそれぞれ成り立つわけである。

 しかしよく考えてみれば、「異床異夢」というのはあまり使い出があることばではない。違う寝床で違う夢、それぞれ立場も目的も違うというわけだから、お互い「カラスの勝手でしょ」の世界だ。まあ、よほど相いれ合わない者同士を揶揄するときぐらいには使えよう。あるいは、気に入らない者を会話から排除するときとかね。

 次は、「異床同夢」。意外と使い出がありそうですな。別の場所や立場にいるが、見ているのは同じ夢、まったく状況は違うのに、目指すところは一緒、となり、これは意外といけそう。テレビ開発者は日米でほぼ同じ時期、同じようなことを考えて、あの「システム」を作り上げたという話もある。

 さて、「同床同夢」。同じ寝床で、同じ夢を見る。立場や状況も一緒で、目的も一緒。何と申しましょうか、こんな「幸せ」もなかなかないとは思いますが、夫婦なら、単なる「のろけ」にしかならないし、それだけならインパクトはもう一つでしょうが・・・。


 とはいえ、夫婦が同じ寝床で同じ夢を、あたかも一緒に見ているような状況になるなんてことが実際にあったら、それはすごいことかもしれない。実は、ぼく自身が、ずばり結婚式の日の夜、夫婦そろって、ある「同じ」夢を見たのです。隣り合って同じベッドの上で寝ていましたから、まさに、物理的にも内容的にも、これは「同床同夢」でしょう。


 その夢というのは、出雲大社に行っての帰り、出雲市駅から岡山駅まで、乗ったことのないはずの181系気動車時代の特急「やくも」に乗って食堂車で食べて飲みつつ帰ってくるというものでした。

 出雲大社自体は、ぼくが大学に合格してすぐの春、1歳年上ですでにO大学に合格していた妻と一緒に行ったことがあります。しかし、ぼくらが出会ったのはO県外のH市で、どちらも実際に食堂車のある時代の「やくも」に乗った経験はありません。

 新幹線もそうですけど、在来線の別の列車の食堂車になら、何度か行きましたけどね。

 しかもその夢では、当時小学生だったはずなのに、成人後のマニア氏こと米河清治氏と、マニア氏の大先輩でO大鉄研創立時からおられた石本秀一氏のお二人が、どういうわけか、この列車の出雲市の次の停車駅である玉造温泉から乗ってきて、そこから倉敷到着前まで一緒に飲食したというわけです。そういえば、O大学の鉄研には、181系気動車のエンジン音を録音するために岡山から玉造温泉まで往復されたOBがおられましたが、なぜ玉造温泉かというと、それは温泉につかったり芸者を呼んで遊んだりするわけではなく、岡山から200キロを超えず、運賃ばかりか特急料金もいくらか出雲市より安くなるからだ、とのことでした。

 一緒に食事とはいうものの、マニア氏と石本氏はぼくらにかまうことなく、鉄道の話ばかりしていましたし、ぼくらはぼくらで隣の妻たまきといろいろと語り合っていましたけどね。ぼくらの話はまあ、仲の良い新婚夫婦の典型的なものだと思うのですが、あとのお二人はというと、鉄道の話は鉄道の話でも、これはちょっと・・・という話ばかりをしていました。

 まあ、そうしてくれた方が、ぼくらはぼくらで楽しめて、よかったですけどね。

 

 翌朝起きて妻に話を聞くと、やっぱり、同じ状況の夢を見ていました。彼らが話していた内容も、ぼくらが話していたことも、ほぼ一緒でした。

 幼馴染とまでは言わないにしても、中学生のときから結婚まで、当時すでにそれなりの期間の付合いがあったとはいえ、新婚夫婦に変わりはありませんので、子どもは何人ほしいかという話もしていたのですが、ぼくと妻はそれぞれ、男の子と女の子1人ずつがいいということで意見が一致していました。妻の夢でも、同じでした。

 そればかりか、マニア氏と石本氏の間の話もまた、いささか問題のある鉄道ファンの話とか、鉄道模型の話とか、おおよそそういうものでしたが、後者については、妻はあまり知識がないのでよく覚えていないようですが、前者については、夢で見た内容とほぼ同じで、その夢の中で彼らが話題にしていた人物も、まったく同一でした。

それではこれから、その夢を見た記憶の通り、それぞれご紹介していきます。


 なお、ぼくらは出会ったころからずっと今まで、「太郎君」「たまきちゃん」と呼び合っています。申し訳ありませんが、ここから先は、その呼び名の通りで書いてまいります。なお、妻についてもこの基準に倣って書いております。

 どうぞご容赦ください。

 ただし、米河清治氏と石本秀一氏については、それぞれの基準で書かれておりますので、その点につきましても、どうかご理解願います。

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