第039話、この街に残ります【完】
第039話、この街に残ります【完】
めんどいが俺は勇者と共に大きな影を見たという路地裏の辺りまでやってきた。
「この辺りか、ん~ 気配はーー」
「うわーー!」
少し離れた場所から叫び声が聞こえた、俺は叫び声の方へと向かう。
「なんだありゃ」
そこには大きな影があった、けれどその姿はーー
「マッツモさん?」
「ソノブショウヒゲハキライナンダヨー! ソッテコイヤー! ワタシハビョウニンダ! ダカラヤサシクシロー! ワタシノイウコトヲキケー!」
大きさは大分違うが、いつものクレームを叫んでいる、間違いないマッツモさんだ。
「知り合いなのか? というか人なのか? 5Mはあるみたいだが」
勇者は唖然としている、マッツモさんの全身には黒いモヤがまとわりついている、前の時よりもかなり多い。
「黒いモヤが見えます、どうやらマッツモさんは瘴気にとりつかれたようです」
「なるほど、とりつかれるとあんな風になるのか、でもどうする? 人であるなら攻撃するわけには……」
「仕方がありません、退治しましょう!」
「おいおい、キミは【聖女】だろ? 街の住人をそんな簡単に退治とか言っていいのか?」
「マッツモさんはクレーマーでした、クレーマーは自分のストレスを他人に分け与え、負の連鎖を生み出す凶悪な存在、そこを瘴気に狙われたのでしょう」
クレーマーは退治する方が世のためだ。
「なので退治してよいかと思われます」
「もうちょっと考えよ? 俺は勇者として人を傷つけるわけにはいかない」
見た目に反して真面目なことを言う、勇者というのは伊達ではないようだ。
「ん~残念、それなら治癒魔法でなんとかしてみましょう」
「残念とか言うなよ、キミは本当に聖女なのか?」
「そうらしいですね」
「他人事かよ、それでどうする?」
「勇者チャラシストさん、しばらくマッツモさんが暴れてるのを食い止めてください、その間に準備します、ミタさんは住人の避難をお願いします」
「誰がチャラシストだよ! 俺はチャカだ!」
「わかりました、僕は防御魔法で住民の皆さんを守りつつ避難誘導します」
「やっぱりミタさんは魔法使いなんですね?」
「たしかに魔法は使えますが、あくまでも僕は魔法の使える『家政婦』です」
なにそのこだわり、メガネをクイッとさせてキメ顔してるし。
いつの間にか勇者チャラシストは巨大化したマッツモさんへ向かっていき、攻撃を食い止め始めていた、真面目だし仕事が早いな。
「お前ら、しゃべってないで早くしろ!」
俺は目をつぶりイメージを固めていく、巨大化したマッツモさんにクロキエロを効果的に使用するには、複数の場所からいっせいに魔法をかける必要がある、そこで俺が使う魔法はーー
「毛魔法、ゴーレム! +クロキエロ!」
地面に手を当てて魔法を使う、地面から毛がニョキニョキと生えてきて人形になる、全部で5体だ。
付与魔法でクロキエロの効果をもつ毛のゴーレムだ、色は黒に赤のハイライトカラー、黒に青のハイライトカラー、黒に緑のハイライトカラー、黒に黄のハイライトカラー、黒にピンクのハイライトカラー。
「毛が…… なんだそりゃ、それになんでハイライトカラーなんだよ、そこは普通に赤、青、緑、黄、ピンクでいいだろ!」
勇者が何か言っているな、ハイライトカラーは最近の流行りなんだよ、ちゃんと美容師さんに聞いたんだから。
「そしてさらに! 毛魔法、アーマー!」
今度は俺の体から毛が生えてきて全身を覆う、顔まで覆っている、色はアッシュ系の白、ホワイトアッシュアーマーだ。
「よし! かかれゴーレム」
5体のゴーレムが巨大マッツモを囲むように散らばる、そして攻撃を交わしながらいっせいに飛び付いていく。 両手、両足、背中にゴーレムが張り付く。
「よし、いいぞ!」
ゴーレムが張り付いた部分の瘴気が薄くなってきた、巨大マッツモさんの動きが鈍る。
俺は素早く巨大マッツモさんの頭に飛び乗る。
「よっしゃ! トドメだ! くたばれマッツモ!」
俺は全力のクロキエロを巨大マッツモさんの頭に浴びせた、マッツモさんの全身が光だし、黒い瘴気は消え去った、そこには普通サイズのマッツモさんが倒れていた、ちゃんと生きている、残念。
「お前…… "くたばれ"とか言ってなかったか?」
「そんなこと言ったかな、気のせいですよ」
ふぅ~ 少しはスッとした、黒い瘴気と共に俺のストレスもぶっ飛ばした。
救いだしたヒロインを連れて帰るのは勇者様の役目なので、勇者様にマッツモさんをお姫様だっこしてもらい、治癒院へ戻っていく。
「なんで俺が……」
「さすが勇者様、ぷっ!」
「ミタ! なにを笑っている!」
「さぁ! 勇者の凱旋です!」
事件は無事に解決した、今度こそ黒い瘴気は消し去ったはずだ。
しかしマッツモさんのように心に闇を抱えた存在がいるといつ瘴気が復活するかわからない。
これからも街を守っていかなくては、俺は心にそう決めた。
***
事件が解決して数日後、勇者は違う街へ旅立つことにしたらしい。
「もう行くのか?」
「ああ、ここには美女はいなかった、次こそは俺だけの聖女=美女を探しだしてみせる!」
こいつは女に関してはブレないな、天性の女好きか。
「残念だ」
「お前…… なんだ、俺のことを認めたのか? 今度こそサインしてやろうか?」
「ミタさんの美味しい料理をもっと食べたかった! せめてミタさんだけでも置いていってくれ! あの料理は素晴らしい!」
「お褒めに頂き光栄ですね、私は一流の家政婦ですから」
「……」
「あ、チャラシストさん、元気でね」
「もう二度とここには来ないからな」
「冗談だって、意外と真面目なのをちゃんと見たから、勇者チャラシストさん、また来てくれよ」
「お・れ・は、『チャカ』だ! しっかり覚えとけ!」
こうして勇者は去っていった、実は昨日の夜に勇者からスカウトされたが、俺はこの街のみんなを守りたいと断った。
俺は今日もこの街で聖女として、ひとりの治癒師として、みんなを治療している。
ご愛読ありがとうございました!
次回作をお楽しみに。
【完結】俺が【聖女】でほんとうにいいのか? 人は助けるが毛も生やすぞ? さるナース @saru-ns
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