エピローグ


 姉ちゃんとのデートの後、俺に彼女ができた。


 姉ちゃんに教わったことを生かして、じっくり時間をかけて心の隙間を埋めていったら、向こうから告白されたのだ。

 彼女といる時間は楽しい。だけど、自分が心の底から喜べてないことに気付いていた。

 俺の頭にあるのはいつだって姉ちゃんとの思い出で。そんな考えが彼女にも伝わってしまったんだろう。


 二ヶ月が経ったある日の放課後、俺は振られた。

 でも不思議と虚しさは感じない。悲しいはずなのに、涙の一滴も出てこなかった。


 それ以上に心の中にあったのは、これでまた姉ちゃんと仲良くできるんじゃというぽかぽかした気持ち。

 デートの日以来、自然と心の隙間ができたみたいで辛かったんだ。

 もう我慢したくない。当たって砕けたって構わない。このままモヤモヤし続けるぐらいなら、真っすぐぶつかりたい。



 俺は急いで家に帰り、リビングへとやってくる。

 姉ちゃんはいつものようにソファでスマホを弄りながら、


 「おかえり、優介」

 「姉ちゃん俺……彼女に振られた」

 「っ……そう、残念だったわね」


 なんでもないような感じで姉ちゃんが言う。

 でも俺には分かるんだ。スマホを落としそうになったこととか、ちょっとだけ表情が曇ったこととか、ギュッと唇を噛んだこととか。

 やっぱ姉ちゃんは優しい。いつも俺のことを思いやってくれてる。


 そんな姉ちゃんのことが俺は、


 「――好きだ」

 「っ、どうしたのよ急に……?」

 「満足できなかったんだ。やっぱり俺は、姉ちゃんじゃないとダメなんだ」

 「あんた自分がなに言ってるか分かってんの」

 「ちゃんと分かってる。俺は姉ちゃんが……朱莉のことが好きだ。姉弟としてじゃなくて、ひとりの女の子として、好きなんだ」

 「バッカじゃないの」


 吐き捨てるように姉ちゃんが言う。

 スマホを置き、こっちに近づいてくる。


 きっとビンタされるんだろう。二度と口を利いてもらえないんだろう。

 でも、それでもいい。俺はこの気持ちを、ちゃんと伝えられてよかったから。


 衝撃に備えて目を閉じる。すると、唇になにか柔らかなものが触れた。


 「っ、ん――っ!?」


 目を開けた先に広がっていたのは、姉ちゃんの整った顔で。

 小刻みに震えるまつ毛とか、漂う甘い香りとか、初めて味わう唇の感触とかが、俺の心を揺さぶってくる。

 俺っ、姉ちゃんにキスされてる……!


 「ん、ちゅ……っ」


 至福の時間はそう長くは続かない。

 姉ちゃんがゆっくりと顔を離し、俺と瞳を触れ合わせる。

 顔を真っ赤にしながらも、妖しい笑みを浮かべながら、


 「そこまで言うならさ、いけない関係になっちゃおっか……?」


 姉ちゃんの問いかけに、ごくりと生唾をのむ。

 

 返事なんて考えるまでもない。最初から決まってる。

 もう引き返せない。そんなことは百も承知。

 この先にどんな辛い道が待ってようと、俺はきっと姉ちゃんとなら乗り越えていける気がするから。



 姉ちゃんの前で俺は、大きく頷いてみせたんだ――――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぜんぜんモテないので、実の姉と付き合うことにした みゃあ @m-zhu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ