香波と友達
ワサビゼリー
ある日の話1話
最近三国町では、失踪事件が起きている。 三国小学校近くの桜並木を夕方に通る人が失踪するのだ。
警察は、失踪事件を目撃した人から話を聞いて、ますます捜査が難しくなったそうだ。警察ニ毎日桜並木の近くを散歩している、というおばあさんが話を聞かせた。
「桜並木を20代後半くらいの男性が通っていたら、急に突風が吹いたんですよ。そしたら、もうその人は、初めからいなかったかのように消えたんですよ」
他にも、同じような状況で小学生が消えた、という報告も入っている。
警察は、三国小学校にたいし通学路の見回り、桜並木の通学禁止を要求した。
それにより、三国小学校6年3組の大滝香波は、登校と下校時間は、いつも並木道を使っていた時の2倍近い時間をかけて、登下校しなければならなくなってしまった。
「はあ、遠回りってこういう時に困るんだよ、まったく」
放送委員会の話し合いが延びてしまい、5時近くに学校を出た香波は、
「まあいいか」
とつぶやくと、桜並木を通って下校することにした。
「大丈夫。走り抜ければ何とかなるはずだ」
香波は、桜並木を一気に駆け抜けようと、奪取の体制に成った。
ビュウーッ!
ものすごい突風が吹き、香波は、どこかへ飛ばされた。
「うわあ、な、なんだ?」
香波は、どことも分からない空間に飛ばされていた。 真っ暗で何も見えない。
そして、どうやら浮いているらしい。
不気味な空間だ。
香波は、周囲を警戒しながら歩いてみた。
足元には何もないのに、しっかりと歩ける。でも、何もない。
ただ暗いだけで何かあるかもしれない。
「やあ、誰かここにいるか?どうなっているのか、私に教えてくれないか?」
声をかけてみる。
声は、闇に吸い込まれていき、何も反応はない。
と思ったら、
「お姉さん、こっちだよ」
さっきまで何も分からなかったのに、急に辺りが見えるようになった。
後ろの方に、ぼんやりと光るものがいる。いや、あれは、女の子の輪郭。
よく見てみると、女の子の周りが光っているのではなくて、女の子が光っていることが分かる。
肩まで伸びた、切りそろえられた黒い髪の毛に、栗色の大きな瞳。
白いワンピースを着た、香波よりおそらく二つほど年下に見えるいたずらっ子のような笑顔をした女の子。
「ねえ、君は誰なんだい?それに、ここはどこなんだい?教えてくれないか?ああ、そう。私は、三国小学校6年3組の大滝香波」
香波は、とりあえず女の子に自己紹介と質問をとばした。
「ここわね、あたしの作った空間。あたしは、金子志保」
「志保ちゃんっていうんだ。いい名前だね。そういえば、ここは、志保ちゃんが作ったって言ってたよね、何で大・??」
「遊ぶため。色んな人を呼んで遊んでもらうんだけど、みんな怖がりなのかもしれないけど、帰り道を間違えて、帰っていけないの」
「どういうことだい?それじゃあ、君がここ最近の失踪事件の犯人って事かい?」
「え?ああ、そうか。それ、あたしなのか・・・」
「君、気づいていなかったのかい?その間違った道体と人は帰れないって言ったのは君だろ?
「・・・。そうだけど、みんなにあたしと遊んでほしかったんだもん」
「はあ、そんなことのために、色色な関係のない人をここに連れて行っていたのかい?」
「だって、友達作りたかったんだよ、あたし!
香波と話しているうちに志保は、だんだんと不満が爆発しそうになっていた。
志保は、そもそも生前は母子家庭だった。
志保の父は、志保が生まれてすぐに自動車事故で亡くなっており、志保と母は、二人暮らしだった。
それだから、母が働いている間に志保は家事をこなさなければならず、小学校には行けたものの、友達を作ることは、、1度も出来なかった。
3年生の秋のある日。
夕飯の買い物帰りだった志保は、居眠り運転の車にはねられ、死んでしまった。
志保は、いつも母に、
「お友達、まだできないの?外で遊んだりしたいのなら、お母さん、仕事の時間を減らすわよ」
と言われていた。
しかし、志保は、母を困らせたくなかったのか、
「ううん、大丈夫。あたし、家事してるの楽しいし」
と答えていた。
でも、志保は、死ぬ間際にこう思っていたのだ。
やっぱり友達がほしかった。
そう思っていたら、志保は、いつの間にか家の近くの桜並木にいた。
感覚で、幽霊としての力を使い、人を連れて来ては、「遊んで」と頼んでは、連れて来た人に怖がられ、帰り道を教えようとしても、間違えた方向に連れてきた人が行ってしまうため、本当に失踪してしまう、という事が起きていたのである。
「志保ちゃんは、友達がほしいんだよね?私が志保ちゃんの友達になろうか?」
香波は、ポツリポツリと語られた志保物語を聞き、そう切り出した。
「本当に?」
「ああ。でも、私が友達になったんだし、もうみんなには迷惑をかけちゃいけないよ。私になら、かけていいけどね」
「お姉さん、あたしの友達?」
「うん」
「ありがとう、か、香波さん」
志保は、まぶしい笑顔で香波に礼を言った。
「私のことは、香波でいいよ」
「ううん、お母さんがね、親しき仲にも礼儀あり、これは大事だよ、っていつも言ってたから」
「いいお母さんだね、志保ちゃんのお母さんは」
「そうだね。ああ、そうだ!」
「どうかしたかい?」
「あたし、香波さんと友達になれたって、お母さんに言いに行きたいの」
「お母さんに?大丈夫なのかい?」
「うん、きっと大丈夫。聞いてないけど、きっとお母さんなら喜んでくれるはずだもん」
「そうか。じゃあ、すぐに行こうか」
「うん」
志保と香波は、手を繋いで志保の作った空間から、桜並木えと出てきた。
空は、夕焼け空から夜の空へともう少しで変わりきるのか、西の空には夕日の赤が少しだけ残っていた。
「香波、こっちだよ!」
「走ると転ぶよ。あっ、やっと香波って呼んでくれたんだね」
しまった、と言う表情をした志保に香波は笑いかけた。
「ありがとう。香波って呼ばれるのが一番好きな呼ばれ方なんだ」
「そうなの、香波さ、香波?」
「無理に、とは言わないけど、やっぱり香波が一番自然だと思ってる」
香波と志保は、楽しそうに話しながら、志保の母が住む、金子家へと歩いて行った。
志保の母が志保と住んでいた家は、桜並木から200mほど離れた所にある、赤い屋根に白い壁の2階建てだった。
志保が、
「ここがあたしの住んでた家だよ」
と得意げに香波に教えた。
「シンプルで素敵な家だね。何だか私の家に似ているな」
と香波は家の周りを見回しながら、志保に返事した。
「チャイムはあそこか。志保、押すかい?」
「うん、押す!」
ピンポーン!
志保が金子家のチャイムを押すと、
「はあい、金子でえす。少しお待ちくださあい。今行きまあす」
と言う間延びした返事が返ってきた。
「あの声、あたしのお母さんの声。っ夕飯、作ってたのかな?」
「そうかもしれないよ」
ガチャリッ。
金子家のドアが開いた。
そこには、ふっくらとした、優しそうな表情の30代後半くらいの女性がエプロンを着て立っていた。
「どちらさ、って、志保?」
「お母さん、志保だよ。あたし、友達が出来たんだよ!」
「どうして、志保が…。志保は、あの日死んでしまったはずじゃ…」
「すいません、おばさん。私、志保ちゃんの友達の大滝香波と言います。志保ちゃん、お友達が出来たから、お母さんに会いに行かせてくれたかったんですよ、私を」
志保の母は、少し固まっていたが、香波の話しを飲み込んだのか、
「そうだったのね。志保、お帰りなさい。香波さんは、居らっしゃい」
「どうもです」
「お母さん、ただいま!」
「ご飯食べていく?今日は、ナポリタンよ」
「うん、食べる!」
「志保ちゃん、ってか、幽霊ってご飯食べても平気なのかい?」
「うん」
「それでは、私もご一緒しても、よろしいでしょうか」
「ええ、だって、志保の初めてのお友達ですもの」
こうして、3人?の奇妙な夕食は始まった。
とても暖かい時間。
楽しい時間はあっという間に酢t義るもので、
「それでは、私は、もう帰らせていただきます。ご馳走様でした」
香波は、そろそろ家に帰らないと不味いので、家へ帰ることを金子親子に伝えた。
「お母さん、香波?」
「何?」
「どうした?」
「あたし、すっごく今楽しかった。香波とは、もっといっぱい遊びたいけど、あたし、もう行くね」
行く。
それは、きっとあちらの世界の事。
「そう。志保、私は、あなたにまた会えてうれしかった。何より、あなたが香波さんと楽しそうに話しているのを見れて、とてもうれしいし、安心したわ。私は、志保の事を、何時までも愛しているわ」
「お母さん、ありがとう。香波、あたしと友達に成ってくれてありがとう。
じゃあね、ばいばあい!」
「志保、ありがとうーっ!」
香波は、志保が光の粒に成って、居間の窓から風に流されて行くのを目で追いながら、精いっぱい礼を言った。
「金子さん、ほんとに今日は、ありがとうございました」
「いつでも遊びにいらっしゃい」
志保がさっきまでここにいた、と言うことを主張するように、志保が夕食で使った皿がぽつんと寂しく置かれていた。
香波が金子家を出ると、空には、満天の星空が広がっていた。
志保、ありがとう。
香波は心の中で何度も言った。
きっとこの体験は、香波にとって一生忘れることのない思い出となるだろう。
香波が歩き出すと、桜並木の上の方に有る星が一つ、ぴかっと瞬いたように見えた。
まるで志保が笑った時のように明るい星だった。
香波は、風に乗って志保に届くことを祈りながら小さな声で言った。
「いつまでも友達、だよ」
7月七日の出来事だった。
香波と友達 ワサビゼリー @Wasabizeri
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