『家ヌシ』

石燕の筆(影絵草子)

第1話

河原崎は、折り込みチラシで、 

『家主になりませんか?』という 怪しげな募集を見つける。 

どうやら、アパートかなにかの 管理人を募集しているようだ。 行ってみると、わずか六畳の部屋に住み込みで寝泊まりし、期日まで仮住まいをしてくれという話で、

しかし、どうやらこの部屋には、 自分が知らない誰かが生活している気がするという。


自分は、月水金だけ仮住まいをする。 そういった決まりなので、 それ以外の日にちは、来たことがない。 約束を破り、火曜日に来てみたが、誰の姿もない。 

ただ、扉には『立入禁止』の文字がある。

構わず入ろうとドアノブを回す。

部屋に入るが別段変わったところはない。

部屋に入り、一時間くらい経過した。

ふいに、電話が鳴る。

とると、


『私の部屋に勝手に入らないでください。今すぐ出てください』という。

無視していると、

『忠告はしましたよ』

と意味深なことを言われる。

気づくと、自分は、なにもない空き地の真ん中にいる。


『私有地』と書かれた朽ちた看板がある。

手には部屋の鍵が握られている。

足元に転がっている新聞をおもむろに手にとると、

年号が『2065年』とある。

そんなバカなと思ったが、

その時、ポケットに置いてあるチラシを見ると、


『警告 必ず曜日は決められた日だけ泊まること。規則を破ると時流しです』

とある。


『島流しならぬ時流しに遭ったのか』

見上げると、首都東京は、壊滅し、

人の気配ひとつない。

河原崎は、ふらふらと歩き出す。

今ではこの町を統治する者はいない。

文字通り巨大な町の『家主』である。




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『家ヌシ』 石燕の筆(影絵草子) @masingan

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