友和的モレンド

君に僕の気持ちは伝わったろうか。

「好奇心は猫を殺す」、その言葉の真意が。


きっと、君は分かっていない。

きっと、今頃そいつとダンスでもしているんだろう。

きっと、僕は君を諦めるしかないのだ。


そいつに君の話をしたのは僕だった。


情報を集めて売るのは往々にして僕の仕事であるし、

何よりそいつが君を「人懐こいラグドールキャットみたいだ」なんて褒めるから、

「なんだ、分かっているじゃないか」だなんて言って口が滑ってしまった。


話終わる頃には、そいつはキラキラした瞳で君を見つめていたさ。

まさか、君がその視線に頬を染めるなんて思いもしなかったけれど。


それから、君達のゴールインまではあっという間だった。

君は波瀾万丈あった様に思ってるみたいだけど、側から見るとお約束に次ぐお約束であったさ。まるでシュクレの山に顔を突っ込んでいるみたいな心地と言えば伝わるかな。


知ってるかい、君。

そいつの国ではスイーツでもないのにシュクレ…砂糖を使うんだぜ。

僕は情報を売って生きている。

一人のルーカス・ルーエンという者として。

だから、知ってしまった。


その男の本質を。

ルイス、そう呼ばれるその男の本当の名を。


君よ。

許されるなら、僕は君にだけ甘いシュクレを捧げる男になったのに。

そんな、春野菜のナヴァランにも仔羊のラグーにも砂糖を使う奴より、ずっと特別なスイーツを仕上げて見せたのに。


こんなのは言い訳だ。

呪われた名前から抜け出せない哀れな男の嫉みだ。


僕は、君を諦める。

でも、覚えていて欲しい。

君と君の幼い宝物を、決して僕は忘れない。


ルーカス・ルーエンの呪われた名は、

ベアトリーチェ・アネーリオ。

必ずその名前を心に刻もう。


せめて、

手の届かない君に願いだけでも届く様に。

細く細く絶え入る様な声で、

呻くみたいに絞り出すみたいに。


ただただ。君が幸せな事を、祈ってる。


───君の為の聖譚曲・END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

十字画帳 真間 稚子 @MarmaChocori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る