十字画帳

真間 稚子

銀糸の復讐者の話

愛好的マルカート

誰かが私の素行を見て言った。

「好奇心は猫を殺す」と。


それでも、愛さずにはいられなかった。

それでも、踊らずにはいられなかった。

それでも、その人が狂おしい程欲しかった。


眼前を真っ黒い猫が横切ろうとする。


みんな、不吉だと言う"それ"の真実を私は知っている。


本来、真っ黒い猫というのは幸せの象徴なのだそうだ。

幸せが自分を無視して通り過ぎてしまうから、不吉。

なんとも、嫉みに塗れたジェラシー。


ふふふ、思わず笑いながら黒猫を抱き抱える。

だって、通り過ぎようとするならば、

こうして捕まえて抱き寄せてしまえばいいのだ。


黒い艶やかな毛並みは、何処かその人を思わせる。

ああ、幸せだ!!!あの人が私に言った言葉を思い起こす。


「愛してる」


あい、アイ、愛!!!

口の中で何度も遊ぶように言葉を転がす。


好奇心が猫を殺してしまうなら、

この熱い愛好の情は私に何をもたらすのだろうか。


とうに答えは知っている。


きっと、食べてしまいたいくらい可愛い私のシャトン。

その人と私の愛の全て。


「女の子ですよ」

そう微笑んだ看護婦の声。


そっと、腹に手をやる。

「ベアトリーチェ」


私とは違う文化の名前。

その人の口にした貴方の名前。


はっきりと、歌うように、

貴方に伝わる様に。


「ベアトリーチェ、愛してる」


喉を鳴らす黒猫に頬を寄せる。

例え、どうなってしまっても、

猫は好奇心に焦がれ続け、

私は愛という熱に身を焼くのだ。


私が燃え尽きるその時まで、

私の喉が枯れるまで。

私は愛しい貴方に歌い続けよう。



───貴方の為の詠嘆曲・END

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