狐火の後継

@marimo_no_oyatu

第1話

九つの命をもつ子


幼少期の覚えている記憶は、たった二つ。

燃えたぎるような熱さと苦しみ。

ふとした時に、身体がその感覚に陥り、倒れそうになる。

衣澄真昼、16歳。私は、青桐という特力組織の中で育った組織の駒であり武器。そして‪”‬九つ︎︎‪”‬の尾を持つ、九尾狐狸だ。



九尾狐狸



私の祖母も九尾狐狸だった。九尾の力は親から子へ受け継がれる。兄弟がいる場合はそのうちのたった一人にしか力は遺伝せず、新たな九尾狐狸が誕生すると、先代の力は退化していく。

が、しかし…私の祖母の子である母は、九尾狐狸ではなかった。受け継がれなかったのだ。ついに力の遺伝途絶えたと思われた矢先、孫の私が、九尾狐狸だった。

それは煙たがられた。一族の名誉である力を奪い取ったと罵倒され、ましてや姉や兄まで差し置いて、当時5歳の私が後継者になったのだから。

この家族に絆なんてみじんもない。

鬼子を産んでしまった。と、実の母にそう言われたときでさえ、感情の起伏ひとつ動かなかった。ただ一言、そうですか。と返す。

別に家を出ていこうとは思わなかった。

これが普通の日常だと思っていたから。

がしかし、九尾狐狸目当ての親戚や権力者が家に来るたび、長女ではなく次女の私にばかり縁談を吹っかけてきたり、アホみたいに高々く私をお膳立てするので、見ていた家族は気に食わなかったようだ。別れの挨拶ひとつなく、私は祖母の家に追いやられることになった。

権力だの能力だの家柄だの…世間の私欲にまみれた嫉妬が、一番厄介であるということを幼子にして知った。


九尾の力を発動していないときは、普通の人間と何ら変わりわない。

力を発動させるには、自分の身体の一部分に傷をつける必要がある。その血に含まれる成分と匂いで、背から九本の尾が現れる。そして化身である狐(こん)を呼び起こしたとき、初めてその力が使える。

祖母の家に来てからは、以前とは驚くほどに異なる優遇をたくさん受けた。

実家に比べると質素で、手伝いも1人しかいない。逆に、実家にはあんなに人がいたのに、なぜこうも違うんだろうかと疑問に思った。

さらに不思議なのが、元九尾狐狸の祖母の近くにいると、力が漲るような、身体が熱くなるような感覚になる。始めはこの感覚に苦労したが、祖母に毎日能力のコントロールと訓練をして貰い、だいぶ慣れてきた。

そのうち、長らく祖母の周りにうろついていた狐が私に着いてまわるようになった。

祖母が言うには、祖母の力は完全には消えていないが、力の強い方を主と定めるため、私に乗り換えたらしい。

なんと薄情な狐かと思った。

今まで祖母と一緒に戦い、苦難を乗り越えて来ただろうに、あの家族以上に不思議な生き物を見た気がする。

一応、周囲に悟られることなく狐(こん)とは意思疎通ができるため、何度か話しかけている。最初の方は、指示をしても無視されていたが。


なぜ私に力が後継されたのかは、祖母にも分からないと言う。

代々、直族の長男、長女が一般的であったらしいが、過去にも第2子目や孫に継がれるケースもあったようだ。

それにしろ、家族から見放された私を祖母は可愛がってくれるし、よっぽど楽しい生活を送れているのだから、この能力がなんであれ、ずっとこのままでいい。そう思った。

ある日庭で転んだとき、膝を擦りむいたため背中から九本の尾が突然生えたのにはおどろいたが、尾の使い方や戦術も教えてもらい、狐(こん)や祖母に相手になってもらいながら毎日訓練した。

祖母の力が日に日に弱くなっていくのも感じた。

そして、もちろん、その分私に力がついていく実感もあった。

九尾狐狸を利用しようとしている権力者は山ほど存在するため、どこからか居場所を嗅ぎつけたやからが何度か家を襲撃しようとしていたらしいが、その都度祖母と狐が未然に察知し守ってくれていた。

実家に住んでいたときは、この能力を誰かのために使う日などこないと思っていたが、これからは私が祖母を守っていこう。

そう心と狐(こん)に誓った。




そう思っていたのに……

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