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『できたよー味見する?』
暫くテレビを見ながらぼーっとしていると、ミナが俺に声をかけてきた。テーブルの方に目をやると大きな皿に見た目の良いグラタンが置かれている。
『味見したら崩れないかそれ』
少しでもスプーンで掬うと不恰好になりそうだなと思い、一応問いかける。
『勿論、別に用意してあるよ』
そういうとミナは冷蔵庫に行き小さいお皿に入ったグラタンを取り出しテーブルに持ってくる。
なるほど、事前に味見用のものを作っていた訳か。
『私はさっき食べて大丈夫だと思ったけど、お兄ちゃんの感想も貰っとこうと思って』
そう言いながらミナは試食用のものをレンジで温め始めた。
『万が一俺がもしまずいって言ったらどうするつもりだよそれ』
『うーん、これは綾ちゃんには出さないで明日のご飯にして、今日はピザかな』
俺の感想一つで今日のためにミナが頑張って作ったグラタンが振る舞われないことを考えると、プレッシャーが少しだけ襲い掛かる気がした。
…というかピザって勝手に頼む気か?
『豪快な判断だが、勝手にピザ頼むのはどうかと思うぞ…』
『あー大丈夫、お兄ちゃんが払うから』
いきなり冷たい声になり俺にそう言う。
『おい』
『あはは、冗談』
そんなやりとりをしているとチンと音がした。
温めが終わり、ミナがレンジからお皿を取り出した。
『まあ、多分大丈夫だから、ほら食べてみて』
ミナはテーブルにグラタンを置いて、俺にスプーンを渡してきて、受け取った俺はスプーンでグラタンを掬い、口にする。
その味は、昔の食べていた頃のことを思い出すようだった。
『似てる…てゆかそのまんま…じゃないかこれ』
『でしょ〜!結構頑張ったんだから!』
手でvの字を作って笑顔でこちらを見てくる。
拍手を送りたいくらいの完成度で、思わず俺はもう一口掬い口にした。
『というか、これ作れるならもっと前から作れたんじゃないか』
普段から作れば良いのにと思いそう言った。というか美味いからまたリクエストしたいほどだ。
『えーと、そうだけどさ…秘密』
少しミナの表情が虚になって、目を逸らされたので、思わず俺は聞き返す。
『秘密?』
そう聞き返すと、ミナはハッとして俺の目を見直した。
『いいのべつに!ほらほら、綾ちゃんそろそろくるから、お兄ちゃんもキッチンの片付け手伝って!』
『はいはい…わかったよ』
はぐらかせられたので深追いはせず、俺はキッチンの洗い物を片付け始めた。
時刻は19時半、恐らくそろそろ綾は来るだろう。
もし明日死ぬとしても、君に決別の言葉はかけられない 数奇 @suki5963
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