第6話  数だけには頼らないこと

実に苦かった。

その報が自身の下に来れば来るほど苦くなった。


―――この日頃、曹操は北伐を終えて、次なる手として荊州を手に入れようと画策していた。


ところへだ。


『劉備が近頃、兵馬を鍛えていまぁす!荊州で鍛えていまぁす!!!』


との報連相が来るわけだ。

それは苦いという訳で、彼は曹仁そうじんを先頭において李典りてんとその他の将を荊州へと進行させてみることにした。


目指すは劉備のいる新野しんや


樊城はんじょうを拠点にして曹仁の一団が貧弱劉備軍に襲い掛かろうとしていた。


「―――5000! 5×1000の5000の兵が攻めて来るみたいで―ス!!!」


アイヤ!これはたまらんち!!!と劉備一行は大いに慌てたが、この男は慌てなかった。


「ただの五千だピョン」


動じなかった単福は言う。


「我が軍は弱小なれど2000の兵がいます」


「しかし、私の立案した作戦通り動けば2000+1000で3000の兵力と同等になります」


「そして、いつもの2倍頑張れば、3000×2の6000になるでしょう」


「勝利確定です」


算数の知らぬ実に無知なる言のように思えたが、その逆で、彼は算数の天才であったようである。


敵を誘い分離させ、右へ左へと散らばらせ、混ぜて混ぜての散らし寿司のように分断された曹仁の一団は見事に叩きのめされた。


五千の兵が壊滅!!!


しかし、曹仁は挫けなかった。

拠点の樊城はんじょうへと戻ると、慎重派の李典の静止を押しのけて、手持ちの全軍二万五千で再度、新野に攻め入ろうとした。しかし・・・


それを単福は利用した!!!


利用して!誘導して!叩きのめすための策を即座に実行に移したのだ!!


単福にとって一番恐ろしかったのは、曹仁が引き籠りになってしまうことであった。

後の天才軍師も述べることになるのだが、動かない敵が一番厄介なのである。

動かないということは『山』である。山は大きく動かせない。どうしようもないのである。

しかし、『水』のように流れてしまえば、あとは誘導すれば汲み取れる。

敵を汲み取って捨ててしまうことが出来るのだ。


まずは敵の弱点を突く。それは将の強さだ。

兵力ならともかく将だけ見れば劉備軍の方が圧倒的に強い。


関羽、張飛、趙雲。


化け物ぞろいのメンツである。

その将の強さを武器に、単福が取った作戦。

それは死ぬ気の特攻であった。


趙雲が李典の軍に特攻! → 李典軍を撃退!!!


それだけで良かった。それを成功しただけで、士気が変わり流れを変えた。

思わぬ劉備軍の戦果に曹仁は陣形を変えるという戦術をとった。


『八門金鎖の陣』


手際よく布陣を敷いた曹仁軍であったが、その陣に隙があることを当人たちは気づけなかった。

気づいたのは彼だけ。陣を見て彼は少しの熟考の後、


「・・・勝ちました」


単福はポツリと言葉を吐いたのであった。

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コミカル三国志(第三部) ダメ人間 @dameningen

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