第11話

 (※ロバート視点)


 あれから、一週間ほど経った。


 おれは絶望したまま、生活を送っていた。

 もう、彼女に会うことはできない。


 彼女は、ほかの男のものになろうとしていた。

 だからおれは、それを止めた。

 ほかの男のものになるくらいなら、誰のものにもならない方がマシだ。


 それに……、最期に、彼女の初めて見せる表情を見た。

 あんな表情、おれ意外に見た人はいないだろう。

 おれだけが知っている、彼女の顔。

 ほかのやつらは知らない。

 だからあの時は少しだけ、優越感に浸っていた。


 しかし今は、体が震えていた。

 おれはいつか、捕まってしまうのではないか……。

 

 軌道修正できない程、おれの人生は狂ってしまった。


 どうして、こんなことに……。

 何が、原因だ?

 おれが彼女に近づいたからか?


 新聞を読むと、彼女のことが書かれていた。

 犯人は不明だが、現在捜査中とある。

 一度だけ、憲兵からの取り調べを受けた。

 あの時は、きちんと受け答えできたのか、よく覚えていない。

 もしかしたら、疑われているのかもしれない。


 そう考えるだけで、体が震えていた。


 少し前までは幸せだったはずなのに……、たったの一日で、信じられないほど変化した。

 今は絶望し、不安な気持ちを抱えながら日々を送っている。


 ジーナのこと以外にもう一つ、新聞のとある記事を読んだ。

 それは、この町で次々起こっている、連続殺人事件のことだった。

 被害者は全員男性で、激しく暴行された末に死んでいるそうだ。

 既に犯人の顔は何度か目撃されている。

 記事には、目撃証言を基にした似顔絵も載せられていた。


 この顔、どこかで見たことがあるような気がする……。


 しかし、深くは考えなかった。

 とにかく今は、ジーナのことで捕まらないためには、どうすればいいか、そればかり考えていた。

 考えて、不安になって、眠れない日々を送っている。

 いったいいつまで、こんな地獄のような日々が続くんだ……。


「買い物にでも行くか……」


 昨日と今日は何も食べていなかったので、さすがに空腹を感じ始めた。

 外に出ると、すっかり夜になっていて、辺りは暗かった。

 しばらく歩いていると、前方から男が近づいてきていた。

 

 周りには、ほかに誰もいない。

 最初はほとんど気に留めていなかったが、彼が段々と近づいて来た時、異様な雰囲気を感じた。

 この男は、普通ではない。

 それにこの男、どこかで見たことがある。


 数秒考えて、思い出した。

 そうだ……、こいつは、おれがジーナをつけている時に、邪魔をしてきた男だ。

 あの時何度も殴られたが、顔は覚えていた。

 そして、あの新聞の似顔絵のことも思い出した。


 あれは、こいつの似顔絵だ。

 今思い出すと、こいつにかなり似ている。

 

 ……ということは、こいつは連続殺人犯なのか?


 いったいどうして、次々に人を殺しているんだ?

 被害者は全員男だったそうだが……。


「お前が、ジーナを殺したのか?」


 目の前の男は、おれにそう言った。

 背筋が、ぞっとした。


「……おれは、そんなことはしていない」


 そう言ったおれの声は、震えていた。


「三番目に殺した奴も、五番目に殺した奴も、そう言いながら、死んでいった」


「……え?」


 ちょっと待て……。

 ということはこいつは……、復讐しようとしているのか?

 愛するジーナを殺したものを見つけだし、自らの手で亡き者にしようとしている……。


 しかも、違ったやつも結局殺しているなんて、どうかしている!

 こいつはやばい。

 早く逃げないと!


 おれは走り出した。

 しかしすぐに、衝撃を受けた。

 男に馬乗りになられて、身動きが取れない。


 男がおれの顔を殴り始めた。

 抵抗しても、その拳が止まることはなかった。


 体中が痛い。

 意識が朦朧としてきた。

 最後に見る光景が、こんな狂った男の顔だなんて……。


 おれはジーナの表情を思い浮かべていた。

 美しい彼女の姿。

 そして、おれだけが知っている、彼女の歪んだ表情……。


 いったい、どこでおれの人生は狂い始めたんだ?

 もう、考える余裕がなくなってきた。

 意識が薄れていく。

 

 どうして、こんなことに……。


     *


 私は新聞の記事を読んでいた。


 そこには、男性の遺体が発見されたと書かれていた。

 その男性が誰なのか、私は昨日から知っている。

 そして、その犯人はその場で捕まった。

 どうやら彼が、最近起きていた連続殺人事件の犯人だそうだ。


 私は新聞をとじて、ため息をついた。


「だからあの時、言ったのに……」


 彼女に近づいても、ろくなことにはならないと……。

 自分だけは、ほかとは違って特別だと、彼はそう思い込んでいた。

 いや、たぶん、彼だけではない。

 彼女の周りにいた人たちはみんな、自分だけは特別なのだと思っていたのだろう。

 私はきちんと警告したのに、彼はそれを聞かなかった。


 何もかもあなたの自業自得なのですから、私を恨まないでくださいね……。

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なるほど、幼馴染を愛しているのですか……。そのせいで身を滅ぼすことになっても自業自得なので、私を恨まないでくださいね? 下柳 @szmr

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