1-4 旅

 「サークはすぐに越えられるのでしょうか。」

 「いえ、数日はかかります、皆さんの足でしたらね・・。しかしわたしには準備はいりません。お急ぎではありませんか。直ちに参りましょう。」

 「あ、はい。」

 ケイルの顔がよかった、と安心したようにほころんだ。

 「案内をお願いできるのですね。」

 「お役に立ちましょう。」

 リュートもにっこり笑ってそう言った。

 「あなたのためでしたら。」

 うん、実にいい。この子、気に入った。

 三人が連れ立って茂みに分け入りしばらく行くと、断ち切られたようにぷつりとある箇所で林が途切れ、唐突に無愛想な乾いた土地が、海のように目の前に広がった。見渡すばかり土と砂と石ころばかり、あちらこちらで風がくるくると回り砂をふき上げているのがのぞまれ、たった今までおおいかぶさるように重なりあっていたあの緑の木々はかけらも見えない。

 「これがサークです。」

 リュートはケイルを見てそう言った。

 「よろしいですか?」

 ケイルはリュートを見上げてこっくりとうなづいた。

 一同は赤茶けた土を踏んでしばらく進んだ。突風が一度彼らを襲い、ケイルが右手を顔にかざして眉をしかめ立ち止まる。そんな彼を気遣うようにわきのリュートが声をかけた。

 「ケイル様大丈夫ですか。」

 「ええ大丈夫、すみません・・それにしても本当に全く何もないところですね。これでは、わたしたちだけでは、どちらをむいて行けばいいのかさえ皆目見当もつきません。」

 それを聞いてリュートは微笑んだ。

 「ですからサークを越えるなんて方が滅多に出ないのでしょうね。しかし時折はここを越える行商人もおりますし、コツを掴めばなんとかなるようですよ。」

 「ダイルやグレンダの商人の方ですね。一度だけ都でお見かけしたことがあります。」

 「ケイル様は都からおいでですか。」

 「はい、都の大院で学問をいたしておりました。」

 「ずいぶん長旅でしたね。」

 「ええ、でもまだ半分来たか来ないかくらいですから・・。」

 広大な乾燥地サークを挟んで東はチェンダ地方、西はゴレル地方と呼ばれている。チェンダは多民族を抱えながらも一応統一され、都を東の端、大海のほとりのシーアに置いているが、ゴレルの方は小国が割拠点在し、一つの地方と言いつつ統制はとられていなかった。また岩山や密林などの地形に阻まれ、国同士の距離もそれぞれあいて、ゴレル一帯すべての地理を把握している者はごく少ないとまで言われている。人の踏み入らぬ土地も多いらしい。

 それにしてもこの少年、シーアの都からここまでと言えばほぼチェンダ横断ではないか。

 

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風と砂の地物語 林城 琴 @Meldin

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